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判例紹介:「接触端子」審決取消訴訟事件

17.04.03 判例

【判決日】平成28年10月26日
【事件番号】平成28年(ネ)第10042号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/215/086215_hanrei.pdf)
【キーワード】構成要件の充足性、均等侵害
【ひとこと】
請求項1の構成要件Dの文言それ自体を見ると、被告製品は構成要件Dを充足しているようにも見えます。しかし、明細書の記載が参酌された結果、構成要件Dの技術的意義と被告製品の技術的意義とが異なるとして、構成要件Dを充足しないと判断されました。クレーム解釈の一例として参考になると思います。
【判決要旨】
1.結論
被告製品と本件発明とは,押付部材とブランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にしており,被告製品は,本件発明の構成要件Dを充足しないことから,文言侵害は成立せず,また,均等侵害も成立しない。よって、本件各控訴を棄却する。
2.事案の概要
本件は,本件特許権を有する控訴人が,被控訴人らに対し,①特許法100条第1項に基づき,被告製品の使用,譲渡,輸入,譲渡の申出の差止めを求めるとともに,②不法行為(民法709条)に基づき,特許法102条3項による損害の賠償等を求めた事案である。
原判決は,被告製品は本件発明の技術的範囲に属しないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は,原判決を不服として控訴した。
3.発明の内容
A 管状の本体ケース(11)内に収容されたプランジャーピン(20)の該本体ケースからの突出端部(21a)を対象部位に接触させて電気的接続を得るための接触端子であって,
B 前記プランジャーピン(20)は前記突出端部(21a)を含む小径部(21)及び前記本体ケース(11)の管状内周面(13)に摺動しながらその長手方向に沿って移動自在の大径部(22)を有する段付き丸棒であり,
C 前記プランジャーピン(20)の前記突出端部(21a)を前記本体ケース(11)から突出するように前記本体ケースの管状内部に収容したコイルバネ(31)で付勢し,
D 前記プランジャーピン(20)の中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部(23)に,押付部材(30)の球状面からなる球状部を前記コイルバネ(31)によって押圧し,前記大径部(22)の外側面を前記本体ケースの管状内周面(13)に押し付けることを特徴とする接触端子。
4.争点
(1)文言侵害の成否-構成要件Dの充足性
(被告製品が構成要件A~Cを充足していることについては争いがない)
(2)均等侵害の成否
※他の争点については判断されず。
5.知財高裁の判断
(2)構成要件Dの「前記プランジャーピンの中心軸とオフセットされた中心軸を有する前記大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」について
ア 傾斜凹部を略円錐面形状とすることについて
前記1のとおり,本件明細書には,「前記切削部としての前記袋孔の底面は,円錐面であることを特徴としてもよい。絶縁球を円錐面の中心軸上に安定して位置させることができるので,コイルバネに電流を流すことなく,プランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができ,接触端子に比較的大きな電流を流し得る」(【0014】)との記載があり,同記載によれば,傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことができ,前記の本件発明の課題を解決することができる。
イ 傾斜凹部の中心軸がプランジャーピンの中心軸とオフセットされていることについて
前記1のとおり,本件明細書には,コイルバネは,両端部から圧縮されるとその中心軸がわずかにゆがむので,押付部材を介してプランジャーピンを付勢する際,本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢し,そのように付勢することによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させつつも,その接触圧力を過度に高めることもない旨が記載されている(【0028】)。
また,本件明細書には,上記オフセットに関し,「前記切削部としての前記袋孔の前記円錐面の中心軸は,プランジャーピンの中心軸とオフセットされていることを特徴としてもよい。プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの内周面により強く押し付けて,プランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができ,接触端子に比較的大きな電流を流し得る」(【0015】),「傾斜面24の中心軸は,プランジャーピン20の中心軸からオフセットされていることが,好ましい。・・・これによれば,コイルバネ31によってプランジャーピン20を付勢する方向を,プランジャーピン20の中心軸に対して微小な角度を有する方向とすることをより確実にする。よって,プランジャーピン20と本体ケース11との摺動を妨げない程度に大径部22を長穴13の内面に押し付けることができる。つまり,より確実にプランジャーピン20から本体ケース11へ電流を流すことができる。」(【0033】)との記載がある。
これらの記載によれば,コイルバネが,押付部材を介して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することは,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させつつも,その接触圧力を過度に高めることもないという効果を奏するものであるところ,傾斜凹部の中心軸がプランジャーピンの中心軸とオフセットされている場合,コイルバネがプランジャーピンを上記方向に付勢することを確実なものとするということができる。
(3)構成要件Dの「押圧」について
前記(1)ウ及び(2)アによれば,「押圧」とは,コイルバネの付勢に係る力を「押付部材」を介してプランジャーピンに伝達するものであり,その際,上記力をプランジャーピンの軸方向のみならず,軸に対して垂直の方向に作用させることによって,プランジャーピンの大径部の外側面を本体ケースの管状内周面に接触させるとともに,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることによって,ブランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流し,前記の本件発明の課題を解決するものであると解される。
(4)被告製品の充足性について
(イ)本件発明と被告製品の技術的意義の相違について
証拠(甲4,甲32の1・2,乙38,54)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品の技術的意義につき,以下のとおり認められる。
プランジャーピンは,その大径部に略円錐面形状を有する傾斜凹部を備えているものであるが,コイルバネにより付勢されて本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように設計されている。コマ状部材は,導電性を有するものであり,その球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するように構成されている。プランジャーピン及びコマ状部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置は,オフセットされている。
このように合計4つの電流経路を確保することにより,被告製品の電気抵抗が低減し,被告製品を流れる電流についてコイルバネを通る経路以外の経路が存在しないという事態が生じる可能性は低くなり,コイルバネに流れる電流量が抑えられる。加えて,コイルバネが●●●●●●●によって被覆されていることから,絶縁性ボールを使用する必要はない。
他方,本件発明においては,前記.のとおり,①傾斜凹部を略円錐面形状とすることによって,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させることができ,それにより,押付部材を介してプランジャーピンに伝達されるコイルバネの付勢に係る力の方向を安定させ,②さらに,傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることにより,コイルバネがプランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンの大径部を確実に本体ケースの管状内周面に接触させて本体ケースへ確実に電流を流すことを可能とするものである。
以上によれば,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。
イ 構成要件Dの「押付部材」に該当する構成の有無
前記アのとおり,被告製品のコマ状部材は,それ自体が本体ケースの内周面に左右2箇所で接触して電流経路を確保している。
他方,前記.のとおり,本件明細書において,「押付部材」につき,小型化の要請にこたえて接触端子の径(幅)を大きくすることなく,コイルバネを流れる電流量を小さくしながら,比較的大きな電流を流し得る接触端子の提供という,本件発明の課題を解決するための構成として,「大径部の略円錐面形状を有する傾斜凹部」内に収容されていることが開示されている。本件明細書において,「押付部材」自体が本体ケースに接触して電流経路を確保することは,開示されていないものというべきである。
したがって,被告製品のコマ状部材は,構成要件Dの「押付部材」に該当しない。ほかに,被告製品の構成中,「押付部材」に相当するものはない。
ウ 「押圧」について
前記アのとおり,被告製品は,プランジャーピン及びコマ部材が確実に傾いて本体ケースに接触するよう,コマ状部材の中心軸とプランジャーピン底面の最深位置をオフセットしている。被告製品のコマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押してこれと1点のみで接触することによって傾き,本体ケースの内周面に左右2箇所で接触するという構成自体からも,通常,コマ状部材の球状部の中心が,プランジャーピン底面の最深位置,すなわち,傾斜凹部の中心軸上に位置することは,考え難い。現に,別紙2は,コイルバネの付勢によって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの大径部の傾斜凹部を押し,それによって,プランジャーピンの突出端部が本体ケースから突出するとともに,プランジャーピンの大径部の外側面が本体ケースの内周面に押し付けられている状態であるが,コマ状部材の球状部の中心は,明らかに傾斜凹部の中心軸からずれている。
よって,コマ状部材の球状部がプランジャーピンの傾斜凹部を押すことは,コマ状部材の球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるものではないから,構成要件Dの「押圧」に該当せず,ほかに,被告製品の構成中,「押圧」に該当するものはない。
エ 小括
以上によれば,被告製品は,構成要件Dを充足しない。
3 争点.(均等侵害の成否)について
なお,前記2.のとおり,被告製品と本件発明とは,押付部材とプランジャーピンとの接触に関し,技術的意義を異にするものということができる。そして,前記1のとおり,本件明細書には,従来技術として,金属製の本体ケースに設けられた長穴にコイルバネを挿入した上でプランジャーピンを挿入し,本体ケースからプランジャーピンの先端部分のみが突出する位置を保持されるという接触端子において,プランジャーピンとコイルバネとの間に絶縁球を介在させ,プランジャーピンの本体ケース内の端部が斜面となっていて,絶縁球がプランジャーピンを本体ケースの長穴の内面に押し付けることができるようになっており,これによって,プランジャーピンから本体ケースへ確実に電流を流すことができるとの構成が開示されている(【0002】,【0004】,【0006】)。したがって,本件発明においては,前記2のとおり,①プランジャーピンの大径部に,単なる斜面ではなく,略円錐面形状の傾斜凹部を設け,押付部材の球状面からなる球状部の中心を傾斜凹部の中心軸上に安定して位置させるよう「押圧」すること及び②傾斜凹部の中心軸をプランジャーピンの中心軸とオフセットさせることによって,コイルバネが,押付部材を介して,プランジャーピンを本体ケースの中心軸に対して微小な角度を有する方向に付勢することを確実なものとすることによって,プランジャーピンから本体ケースへ確実に電流が流れるようにすることが,従来技術に見られない,特有の技術的思想を構成する特徴的部分に当たるというべきである。
前記2によれば,本件発明と被告製品は,上記本質的部分において相違することが明らかであるから,均等侵害の成立を認める余地はない。

以上