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判例紹介:「黒ショウガ成分含有組成物」審決取消訴訟事件

17.05.01 判例

【判決日】平成29年2月22日
【事件番号】平成27年(行ケ)第10231号 審決取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/535/086535_hanrei.pdf)
【キーワード】サポート要件

1.事案の概要
本件は、発明の名称を「黒ショウガ成分含有組成物」とする本件特許(特願2013-64545号、特許第5569848号)に対して原告により特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明について特許無効審判請求がなされ,特許庁が「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたため、原告が、本件審決の取り消しを求めて,本件訴えを提起した事案である。

2.本件発明
(1)クレーム
【請求項1】
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として,その表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
【請求項2】
経口用である請求項1に記載の組成物。
(2)課題
黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供する。

3.無効理由
(1)進歩性欠如
(2)実施可能要件違反
本件明細書の実施例1及び2には,本件発明1に係る「パーム油(ナタネ油)でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)」の具体的な製造方法や原料の入手方法,すなわち,具体的にどのような大きさ(粒径)の黒ショウガ原末(芯材)に対し,どのような手法を用い,どのような条件で,パーム油(ナタネ油)コートをおこなったかについての記載がないため,当業者は,技術常識を考慮しても,当該パーム油(ナタネ油)でコートされた黒ショウガ原末をどのように製造するかについて理解することができない。
(3)明確性要件違反
「(芯材)の表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」状態がどのような状態であるかについて,請求項1の記載から明確に理解することはできず,本件明細書の記載をみても,コート層の厚み,被覆率等の記載がなく,黒ショウガ粒子とコート剤の相対関係を明確に理解できないため,当業者は「(芯材)の表面の一部又は全部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」状態がどのような状態であるかを明確に理解することができない。
(4)サポート要件違反
請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」という文言では,コート層の厚み,被覆率等が規定されておらず,実施例においてもコート剤の被覆量が不明であり,仮にナタネ油あるいはパーム油にポリフェノール類の体内への吸収を高める作用があるとしても,どの程度の被覆量で「黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高める」作用が生じるかについては不明であり,コート剤が極小量の場合や未被覆の部分を有する場合にまで所定の効果が得られるとはいえないから,本件発明は,発明の目的,効果を達成し得ない範囲を包含している。

4.審決
(4)サポート要件違反
黒ショウガ成分を含有する粒子を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した組成物によって,ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高めるという課題が解決できることを本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者は認識できるといえるから,本件発明1は本件明細書の発明の詳細な説明に記載されている。

5.原告の主張(サポート要件違反)
請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」との文言は,コート層の厚み,被覆率等が規定されていない以上,コート剤に含まれるナタネ油あるいはパーム油の量が極小量である構成をも許容していることが明らかであるところ,仮にナタネ油あるいはパーム油にポリフェノール類の体内への吸収性を高める作用があるとしたとしても,これらが極小量の場合には,当該ナタネ油あるいはパーム油に起因して本件発明の効果(黒ショウガ成分を経口で摂取した場合にも,黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高める作用)を奏するとはいえない。
また,「その表面の一部又は全部を…」との文言は,芯材(黒ショウガ成分を含有する粒子)におけるコート剤によって被覆されている部分がごく一部である構成を許容していることが明らかであるところ,例えば,芯材におけるコート剤によって被覆されている部分が全表面積の10%,露出部分が同90%であるとすると,露出部分はコート剤にて被覆されていない黒ショウガ成分を含有する粒子と実質的に同一であるので,保存安定性,胃液などによる変性を防止できないことが通常であり,「摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め,摂取後の胃液等による変性を防止することができる」とする根拠が不明である。

6.裁判所の判断(サポート要件違反)
なお,原告は,本件訴訟手続においては,上記主張を予備的主張と位置付けているが,裁判所は当事者が付した主張相互の順序に拘束されるものではないから,この点から判断することについて妨げはないというべきである。
(1)判断基準
特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件に適合するものでなければならないと定めている。その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するから,そのような特許請求の範囲を許容しないとしたものである。
そうすると,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,①発明の詳細な説明に記載された発明で,②発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。
(2)判断
当業者は,本件明細書の実施例の記載から,「黒ショウガ成分を含有する粒子」が,パーム油あるいはナタネ油と混合,懸濁された状態とするのではなく,パーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより,本件発明の課題を解決することができると認識するものと認められる。
そして,本件出願当時,一般に摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は少ないという技術常識があるにもかかわらず,本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」自体に吸収性を高める特段の工夫がなされていない態様が包含されており,また,「油脂を含むコート剤」にも吸収促進のための成分が含まれていない態様が包含されていることからすれば,当業者は,本件発明の課題を解決するためには,パーム油あるいはナタネ油のような油脂を含むコート剤にて被覆することが肝要であると認識するといえる。
しかし,その一方,ある効果を発揮し得る物質(成分)があったとしても,その量が僅かであれば,その効果を発揮し得ないと考えるのが通常であることからすれば,当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。
本件明細書においては,「パーム油でコートした黒ショウガ原末」の被覆の量や程度について具体的な記載がなされておらず,コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合においても本件発明の課題を解決できることが示されているとはいえず,ほかにそのような記載や示唆も見当たらない。すなわち,コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。

以上