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新着情報

判例紹介:「空気入りタイヤ」審決取消訴訟事件

17.06.01 判例

【判決日】平成29年2月7日判決言渡
【事件番号】平成28年(行ケ)第10068号 審決取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/497/086497_hanrei.pdf)
【キーワード】進歩性
【判例要旨】
第1 主文
特許庁が不服2014-26370号事件について平成28年2月1日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1.特許請求の範囲の記載(※符号は、筆者追記)
「【請求項1】
一対のビード(20)部間をトロイド状に跨って配設された少なくとも1層のカーカス(12)と,
該カーカス(12)のタイヤ径方向外側に配置され,タイヤ周方向に延びる複数の周方向主溝(26)が形成されたトレッド(14)と,
タイヤ径方向における前記カーカス(12)と前記トレッド(14)との間に配設され,タイヤ赤道面に対し鋭角となる第1角度(A)で交差すると共にタイヤ幅方向両端において折れ曲がることによりジグザグしながらタイヤ周方向に延びるコード(30,32)が全領域に埋設されている少なくとも1層の内側ベルト(16)と,
タイヤ径方向における該内側ベルト(16)と前記トレッド(14)との間に配設され,前記タイヤ赤道面に対し前記第1角度よりも大きい鋭角の第2角度で交差するコード(34)が全領域に埋設され,タイヤ幅方向両側の切断端部(18A)がタイヤ幅方向内側に折り返され,前記切断端部(18A)が前記周方向主溝(26)のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され,前記トレッドの接地幅をWとすると,両側の前記切断端部(18A)が,タイヤ赤道面から(0.15~0.35)Wの範囲に位置している少なくとも1層の外側ベルト(18)と,
を有する空気入りタイヤ。」
2.本件審決の理由の要旨
(1)本願発明は,引用例1(特開2001-163008号公報)に記載された発明及び引用例2(特開平8-230410号公報)に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2)本願発明と引用発明との相違点
コードに係る「第2角度」と,「外側ベルト」の「タイヤ幅方向両側の切断端部」の「配置」とに関して,本願発明では,「前記タイヤ赤道面に対し前記第1角度よりも大きい鋭角の第2角度で交差するコードが全領域に埋設され,タイヤ幅方向両側の切断端部がタイヤ幅方向内側に折り返され,前記切断端部が前記周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置され,前記トレッドの接地幅をWとすると,両側の前記切断端部が,タイヤ赤道面から(0.15~0.35)Wの範囲に位置している」のに対して,引用発明では,「タイヤ赤道面に対し,鋭角の第2角度(所定角度10~35度)で交差するコードが全領域に埋設され,切断端部が周方向主溝のタイヤ径方向内側位置を避けて配置されている」点。
第3 当事者の主張
1.相違点(コードの角度)に係る容易想到性の判断の誤りについて (省略)
2.相違点(切断端部の配置)に係る容易想到性の判断の誤りについて
〔被告の主張〕
(1)主溝に対する切断端部の配置 (省略)
(2)接地幅に対する切断端部の位置
ア トレッドのショルダー部との関係
(ア)引用例2に記載された技術事項において,ベルトを折り返す幅がトレッドのショルダー部の全域にわたること
引用例2では,「ベルト層は,」「該ベルトプライの両端を折り返した折り返し部がトレッドのショルダー部に位置するように形成」されるところ,トレッドのショルダー部は,0°バンドによっては拘束されにくいタイヤ軸方向にも変形し,当該バンドによってはその変形を十分に拘束できないから,当該バンド以外の手段により,同部の補強性を高める必要があるとされている(【0026】,【0027】)。
… 中略 …
したがって,引用例2に記載された技術事項は,「トレッドのショルダー部」,すなわち,タイヤが接地しているときに,少なくともタイヤ軸方向に必要以上に変形しやすい領域を補強することを目的としており,当業者であれば,ベルトを折り返す幅が,かかるトレッドのショルダー部全域にわたるものとたやすく理解することができる。
(イ)引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用して構成されたタイヤにおいて,本願発明の数値限定を満たすように構成することは格別なものではないこと
引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用して構成されたタイヤにおいて,当業者は,タイヤが接地しているときに,少なくともタイヤ軸方向に必要以上に変形しやすい領域を補強するように,折り返し幅を適宜設計する。また,その際,ある程度は領域的に余裕をもって補強しようとするとともに,明らかに不要な領域を補強することはないということができる。
… 中略 … そうすると,引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用して構成されたタイヤにおいて,その切断端部を,トレッドのショルダー部よりも周方向内側に位置付けるとともに,赤道面からは周方向に相当程度離れたところに位置付けることは,格別のことではなく,切断端部の位置は,本願発明の数値限定を含む範囲において設定されるものといえる。
なお,本願発明の数値限定については,臨界的意義があるものではなく(【0049】,実施例),トレッドのショルダー部や赤道面付近のように大きく変形する部分は避けて位置させるという程度の意味しか有していない。また,その数値限定は,赤道面からトレッドの接地端までの距離の30~70%という広い範囲に及ぶものである。
(ウ)したがって,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明において,ベルトの切断端部の位置を,本願発明の数値限定を満たすように構成することは,当業者が適宜になし得たものである。
イ ひずみとの関係
(ア)数値限定の下限
… 中略 … そうすると,当業者であれば,ベルトの切断端部を赤道面に近づけた場合の弊害を具体的に予測することができ,それを赤道面からある程度は外すように構成するといえる。そして,その際,どの程度外すかについては,求められる性能に応じて適宜設計できることである。
なお,タイヤ耐圧性の観点は,遠心力による迫出し時のひずみの集中を避けた結果,当然に得られることにすぎない。
(イ)数値限定の上限
本願発明の数値限定の上限は,せん断ひずみの集中を避けるとの観点から定まるものとされている(【0035】)。しかし,トレッドのショルダー部は変形しやすいのであるから(乙5),前記(ア)と同様に,当業者であれば,ベルトの切断端部をトレッドのショルダー部に位置させた,あるいは近づけた場合の弊害を具体的に予測することができ,それをトレッドのショルダー部からある程度は外すように構成するといえる。そして,その際,どの程度外すかについては,求められる性能に応じて適宜設計できることである。
(ウ)したがって,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明において,ベルトの切断端部を,本願発明の数値限定を満たすように構成することは,当業者が適宜になし得たものである。
ウ よって,引用発明において,ベルトの折り返された切断端部を,タイヤ赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させることは,当業者が容易になし得たものというべきである。
第3 当裁判所の判断
(1)~(3)省略
(4)接地幅に対する切断端部の位置
ア 次に,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明は,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させるという本願発明の構成を備えるものになるかについて検討する。
イ 引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」の領域引用例2には,「トレッドのショルダー部」が航空機タイヤのどの部分を具体的に指すのかについて記載はない。そして,「ショルダー」が「肩」の意味であることからすれば,「トレッドのショルダー部」とは,トレッドの肩のような形状の部分を指すと解するのが自然である。そして,引用例2の【図1】によれば,かかる形状の部分は,トレッドの中でもサイドウォールに近い部分,すなわち,トレッドの端部をいうものと解される。
また,引用例2には,「高速回転時のトレッド部の変形を抑制するための採用する0°バンドは,トレッド両端部における拘束力が少ないので,トレッドショルダー部の膨張変形に対する効果は少ない。」と記載され(【0026】),トレッド両端部における拘束力とトレッドのショルダー部の膨張変形に対する効果との間に直接の因果関係がある旨説明されており,引用例2における「トレッドのショルダー部」とは,0°バンドによる拘束力が少ない部分である,トレッドの端部と解するのが自然である。
… 中略 …
したがって,引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」とは,トレッドの端部を意味するものと認められ,同技術事項は,ベルトプライの両端の折り返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものということができる。
ウ このように,引用例2に記載された技術事項は,ベルトプライの両端の折り返し部を,トレッドの端部に位置するように形成するものであって,引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用しても,折り返し部が形成されるのは「トレッドゴム26」の端部である。したがって,引用発明に引用例2に記載された技術事項を適用しても,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させるという本願発明の構成には至らないというべきである。
(5)被告の主張について
ア 「トレッドのショルダー部」の領域
被告は,引用例2に記載された技術事項において「トレッドのショルダー部」とは,補強性を高める必要があるところであって,タイヤが接地しているときに,少なくともタイヤ軸方向に必要以上に変形しやすい領域であると主張する。
しかし,前記のとおり,引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」とは,トレッドの端部を意味するものと認められる。また,引用例2の【0026】は,一定の範囲に特定された「トレッドのショルダー部」が存在することを前提に,0°バンドは,拘束力が少なく「トレッドのショルダー部」の膨張変形に対する効果が少ないことから,「トレッドのショルダー部」の補強性を高める必要性を指摘し,その上で,【0027】において,折り返し部が「トレッドのショルダー部」に位置するように形成するのが好ましいとするものであって,「トレッドのショルダー部」を,補強性を高める必要があるところと解するのは,結局は循環論法となり,【0026】及び【0027】の記載が無意味になる。
したがって,引用例2に記載された技術事項の「トレッドのショルダー部」に関する被告の解釈は採用できない。
イ 引用発明における必要以上に変形しやすい領域
被告は,引用発明において,タイヤが接地しているときに,少なくともタイヤ軸方向に必要以上に変形しやすい領域は,接地端よりも相当程度中央に及び,また,接地端から最外側周溝を一定程度超えた先まで及ぶと主張する。
しかし,そもそも,引用例2に記載された技術事項における「トレッドのショルダー部」を,タイヤが接地しているときに,少なくともタイヤ軸方向に必要以上に変形しやすい領域と解釈することはできないから,被告の上記主張は失当である。また,空気圧を張ったときの形状と荷重をかけたときの形状を重ね合わせたタイヤの図(乙5の図4.6)を前提とすれば,同タイヤが,自動車用タイヤであることなどを斟酌しても,タイヤ接地時にタイヤ軸方向に変形するのは,主にトレッドの端部であるといえるから,必要以上に変形しやすい領域が,接地端よりも相当程度中央に及び,また,接地端から最外側周溝を一定程度超えた先まで及ぶとの被告の上記主張も採用できない。
ウ 数値範囲の好適化
(ア)被告は,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明において,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させることは適宜になし得ると主張する。
(イ)しかし,前記のとおり,引用例2に記載された技術事項の目的は,比較的低弾性率のコードを用い,また,コードをタイヤ周方向に比較的浅い角度とすることによって生じるトレッド両端部における拘束力の低下を,折り返し部でコードを重ねることによって補強し,ベルト層両端の損傷を防止しようというものである。
そうすると,引用例2に記載された技術事項の目的を達成するために必要なベルトの折り返し幅は,低弾性率のコードを比較的浅い角度で配置することによって生じるベルトのトレッド両端部に対する拘束力の低下を防ぐ程度のものが必要であり,かつ,その程度のものであれば十分である。
したがって,引用例2に記載された技術事項は,ベルトのトレッド両端部に対する拘束力の低下を防ぐために,ベルトプライの両端を,折り返し部がトレッドのショルダー部に位置する程度の幅に折り返すことを示唆するにすぎず,トレッド両端部に対する拘束力の低下を防ぐという目的以外に,折り返し幅を調整することを示唆するものではないから,当業者は,引用例2に記載された技術事項を適用した引用発明において,切断端部の位置を赤道面やトレッドのショルダー部との距離に応じて調整するという発想には,そもそも至らない。
(ウ)また,前記のとおり,本願発明は,外側ベルトの切断端部の位置の下限をタイヤ赤道面から0.15Wとしたから,タイヤ耐圧性を確保するとともに,遠心力による迫出し時のひずみの集中を避けることができ,上限をタイヤ赤道面から0.35Wとしたから,せん断ひずみの集中を避けることができ,その結果,セパレーションの発生を抑制できるというものである。そして,一般的に,タイヤが遠心力により迫出すことが技術常識であり,かつ,トレッドのショルダー部は変形しやすいということができたとしても,このことは,当業者に,ベルトの切断端部の位置を,赤道面やトレッドのショルダー部との距離に応じて調整するという本願発明のような発想を与えるものではない。
(エ)さらに,ベルトを折り返したタイヤにおいて,その切断端部の位置が,本願発明の数値限定と同程度になるという周知技術が認められるとしても,このような周知技術の認められるタイヤは,いずれも自動車用タイヤに関するものであって(乙6,7),航空機用タイヤと自動車用タイヤとは,高速性や荷重の大きさの点から求められる性能が大きく異なるから,自動車用タイヤにおける技術をもって,本願発明のような航空機用タイヤにおける周知技術を認定することはできない。
(オ) したがって,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させることを適宜になし得るとの被告の主張は採用できない。
(6)小括
以上によれば,引用発明において,外側ベルトの切断端部を,タイヤの赤道面から0.15~0.35Wの範囲に位置させることを,当業者が容易に想到できたということはできないから,接地幅に対する切断端部の位置に関する本願発明と引用発明との相違点についての本件審決の判断は,誤りというべきである。
以上