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「加工飲食品及び容器詰飲料」特許取消決定取消請求事件

17.07.03 判例

【判決日】平成29年6月14日判決言渡
【事件番号】平成28年(行ケ)第10205号 特許取消決定取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/835/086835_hanrei.pdf)
【キーワード】実施可能要件
【ポイント】請求項に係る発明に問題はないが、それを実現する測定方法において、イレギュラーなケース「なお粘度を有している場合」を想定した測定手順も追記したところ、その測定を行うべきかの判断ができないとして、実施可能でないと判断された。
【ひとこと】明細書の記載において、イレギュラーな場合を想定して通常時ではない場合の対処を記載し、それをも権利範囲に取り込むことは、行いうる。また、本事案では、篩を通過するか否かだけが問題であるので、実際「なお粘度を有している」か否かは重要でないと判断してしまう可能性が高い。特許権者には酷であるが、当該明細書の記載を削除すべきであったと思われる。
【判例要旨】
1.結論
1 原告らの請求を棄却する。
2.事案の概要
(1)本件は,特許異議の申立てを認めて特許を取り消した決定に対する取消訴訟である。争点は,実施可能要件及び明確性要件に関する判断の適否である。
(2)特許庁における手続の経緯
原告らは,名称を「加工飲食品及び容器詰飲料」とする発明について,特許出願(特願2014-84039号)をし,その設定登録(特許第5694588号)を受けた。
本件特許について,Aから特許異議の申立てがされたため,特許庁は,これを異議2015-700019号事件として審理し、原告らは平成27年12月8日付けで取消理由を通知されたため,その審理の過程で,平成28年2月9日,特許請求の範囲の減縮等を目的として訂正請求をした。特許庁は,更に同年5月6日付けで取消理由を通知し,同年8月3日,本件訂正を認めた上で,「特許第5694588号の請求項1~9に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本は,同月12日,原告らに送達された。本件訂正後の請求項1は次のとおりである(下線は訂正部分、請求項2~9は訂正無し)。
【請求項1】訂正後
野菜または果実を破砕して得られた不溶性固形分を含む加工飲食品であって,
6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が10重量%以上であり,
16メッシュの篩を通過し,かつ35メッシュの篩を通過しない前記不溶性固形分の割合が5重量%以上25重量%以下である
ことを特徴とする加工飲食品。
<<問題の明細書の記載>>
【0036】
本発明に係る加工飲食品全体のうち,6.5メッシュの篩を通過し,かつ16メッシュの篩を通過しない不溶性固形分(以下,第1不溶性固形分と称する)の割合は,10%以上である。メッシュとは,1インチ(2.54㎝)の間に目の数が幾つあるかを示す数字であり,針金の太さと目の間隔はJIS規格で規定されている。不溶性固形分は,日本農林規格のえのきたけ缶詰又はえのきたけ瓶詰の固形分の測定方法に準じて測定することができる。測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈し,16メッシュの篩等の各メッシュサイズの篩に均等に広げて,10分間放置後の各篩上の残分重量を重量パーセントで表した値を,本発明の粗ごし感を有する不溶性固形分と定義する。この時,10メッシュの篩も単独でまたは16メッシュの篩等と重ねて使用することができるが,10メッシュの篩上の残分は16メッシュ上の残分よりも不溶性固形分が大きいためにより明確に粗ごし感や野菜感や果実感を実感することができる。ただし,使用する野菜または果実自体の硬度や水分さらには殺菌等の熱処理耐性により実感できる粗ごし感はある程度左右される。しかしながら,20メッシュ以下の細かい網サイズの篩を通過してしまう不溶性固形分は,粗ごし感が十分でなく,逆に粘性やとろみまたはドロドロ感を想起するようになるため,本発明の粗ごし感には定義されない。
【0038】
篩上の残存物は,基本的には不溶性固形分であるが,サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。

3 決定の理由の要点
(1)実施可能要件違反
本件明細書の段落【0038】の「サンプルを上述のように水で3倍希釈してもなお粘度を有している場合は,たとえメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合があり,その場合は適宜水洗しメッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分を正しく測定する必要がある。」との記載によれば,不溶性固形分の測定に当たり,なお粘度を有しているか否かの判断基準が必要となる。
また,「適宜水洗」する程度についても,何らかの手順等の特定が必要となる。しかしながら,本件明細書においては,何をもって粘度を有していると判断し,水洗が必要であるとするのか,その基準が開示されていない。
本件発明(本件特許の請求項1~9に係る発明)が対象とする加工飲食品は,その組成からみて多少の粘度を有していることは明らかであるところ,「なお粘度を有している」ことについての基準が開示されていなければ,その後の水洗の要否を当業者は判断することはできない。そして,水洗が必要であると判断した場合であっても,水洗の手順によって測定結果が大きく変化することは当業者において容易に想像し得るところ,水洗をどのような手順で行うか(例えば,どの程度の水量で,どの程度の水の勢いで水洗するか等)についても何ら開示はされていない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の「不溶性固形分の割合」の測定方法を当業者が適切に再現することができない。
(2)明確性要件
本件特許の請求項1に記載された「不溶性固形分の割合」は,上記(1)のとおり,その測定方法が当業者に適切に再現することができないものとなっているため,結局,「不溶性固形分の割合」としてどのようなものが特定されているのか明らかでなく,特定しようとする発明を不明確にしている。請求項1を引用する請求項2~9についても,同様である。

4.原告の主な主張
本件明細書の段落【0038】の記載は,例外的に本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合,例えば,不溶性固形分がメッシュよりも明らかに大きな塊となっている場合を想定し,段落【0036】の測定方法を実施する上での注意的な事項として付記的に記載したものである。そして,このようなものが例外的なものか否かは,どの程度の粘度を有しているかによって判断するのではなく,粘度が高くて本来は通過する大きさの不溶性固形分の塊が篩の目にべったり付着して篩上に残っている状態か否かで判断するのである。本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残るか否かについては,そのような大きさの不溶性固形分の塊が篩に残っているかなど目視で容易に判断できるものであり,塊がある場合は水を掛けて塊をくずすだけのことであるから,当業者であれば技術常識として判断できるといえる。
本件明細書の段落【0038】の例外的な記載において不溶性固形分を測定することができないからといって,発明の詳細な発明の記載全体が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分でないとする決定の判断は失当である。
本件発明の「不溶性固形分の割合」は,その測定方法が当業者に適切に再現することができるものであるため,特定しようとする発明は明確である。

5.被告の反論
本件発明には,「測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」であって「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する場合」が包含されることは,明らかであり,そのようなケースについても,少なくとも,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて,その不溶性固形分の割合を正しく測定できるかを実際に確認できる必要がある。
ところが,本件明細書には,「なお粘度を有している」「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分であっても篩上に残存する」か否かの判断基準が記載されていないから,その後の水洗の要否を判断することができない。また,本件明細書には,水洗をどのような手順で行うかについても何ら記載されていない。
ほとんどの場合,当業者は,本件発明の明細書全体から判断し,追加的に粘度の判定及び水洗を実施せずに,段落【0036】の測定方法によって不溶性固形分の測定を行えばよいと判断できる旨主張する。しかしながら,本件発明が,「なお粘度を有している場合」をも包含するものである以上,仮に,原告らが主張するように,「なお粘度を有している場合」が例外的であったとしても,そのことをもって実施可能要件を満たすということはできない。

6.裁判所の判断の要旨
本件明細書の上記記載によれば,本件明細書には,測定対象のサンプルが水で3倍希釈しても「なお粘度を有している場合」であって,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合には,適宜,水洗することによって塊をほぐし,メッシュ目開きに相当する大きさの不溶性固形分の重量を正しく測定する必要があることが開示されているものと解される。
そして,本件明細書の段落【0009】【0030】の記載によれば,本件発明に係る加工飲食品は一定程度の粘度を有するものと認められるから,段落【0036】に記載された本件測定方法によると,実際に,各篩のメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分により形成される塊が篩上に残存する場合も想定されるところである。
しかしながら,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合に追加的に水洗をすると、本件明細書の段落【0036】に記載された本件測定方法とは全く異なる手順が追加されることになるのであるから,このような水洗を追加的に行った場合の測定結果は,本件測定方法による測定結果と有意に異なるものになることは容易に推認される。
このように,本件明細書に記載された各測定方法によって測定結果が異なることなどに照らすと,少なくとも,水洗を要する「なお粘度を有する場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に塊となって残存している場合」であるか否か,すなわち,仮に,篩上に何らかの固形分が残存する場合に,その固形物にメッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか,メッシュ目開きよりも大きな不溶性固形分であるのかについて,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて判別することができる必要があるといえる。
しかしながら,本件測定方法によって不溶性固形分を測定した際に,篩上に残存しているものについて,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が含まれているのか否かを判別する方法は,本件明細書には開示されておらず,また,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に照らし,篩上に残存しているものが,メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分を含むものであるのか否かについて,一般的な判別方法があるわけではなく,証拠(乙1)及び弁論の全趣旨によれば,測定に使用される篩は,目開きが16メッシュ又は35メッシュのものと認められるから,篩上に残った微小な不溶性固形分について,単に目視しただけでは細かいものであるか否かは明らかではないといわざるを得ない。
そうすると,当業者であっても,本件明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,その後の水洗の要否を判断することができないことになる。
したがって,本件発明の態様として想定される,「測定したいサンプル100グラムを水200グラムで希釈」しても「なお粘度を有している場合」も含めて,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて,本件条件を満たす本件発明に係る加工飲食品を生産することができると認めることはできない。
原告らは,不溶性固形分の判別方法について,本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残るか否かは,そのような大きさの不溶性固形分の塊が篩に残っているかなど目視で容易に判断できるなどと主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,目開きが16メッシュ又は35メッシュの篩上に残った微小な不溶性固形分について,水洗の対象とすべき,「なお粘度を有している場合」であって,「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」に該当するか否かを目視で容易に判別することはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
原告らは,本件明細書の段落【0038】の「なお粘度を有している場合」との記載は,例外的に本来であれば通過しなければならないような大きさの不溶性固形分が篩に残る場合,例えば,不溶性固形分がメッシュよりも明らかに大きな塊となっている場合を想定し,本件測定方法を実施する上での注意的な事項として付記的に記載したものであり,ほとんどの場合,本件明細書全体から判断し,追加的に粘度の判定及び水洗を実施せずに,段落【0036】に記載された本件測定方法によって不溶性固形分の測定を行えばよいと判断できる旨主張する。
しかしながら,仮に,原告らの主張するように,「なお粘度を有している場合」が例外的な場合であったとしても,本件発明の対象である加工飲食品には限定がなく,本件明細書上,上記のような粘度を有する場合が想定されるのであるから,水洗をすることによって各篩上の不溶性固形分の重量を正しく測定することが必要となるのであり,そうである以上,水洗の要否を判断するために,サンプルが「なお粘度を有している場合」であって「メッシュ目開きよりも細かい不溶性固形分が篩上に残存する場合」に該当するか否かを判別することを要する。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
なお,仮に,本件明細書の段落【0038】の記載が本件発明の実施に無関係のものと考えるのであれば,少なくとも訂正請求の手続において削除すべきものと解される。
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められないから,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない旨の決定の判断に誤りはなく,本件特許は,特許法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。
よって,原告らが主張する取消事由1は理由がない。
結論
以上のとおり,原告ら主張の取消事由1は理由がなく,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
以上