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判例紹介:「電気コネクタ」審決取消請求事件

17.07.18 判例

【判決日】平成29年5月31日判決
【事件番号】平成28年(行ケ)第10150号 審決取消請求事件

http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/790/086790_hanrei.pdf

【キーワード】進歩性(引用発明の認定,相違点の判断),補正・訂正の許否(独立特許要件)
【判決要旨】
1.結論
特許庁が訂正2015-390144号事件について平成28年5月23日にした審決を取り消す。

2.特許庁における手続の経緯等
原告は,名称を「多接点端子を有する電気コネクタ」とする発明に係る特許出願(特願2008-201583号)をし,特許第5197216号として特許権の設定登録を受けた。
原告は,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載について,特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正審判を請求した。
特許庁は,上記請求を訂正2015-390144号事件として審理した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。
原告は,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。

3.特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線部分は本件訂正による訂正箇所である。(※符号は、筆者追記)
【請求項1】
端子(20)が複数の弾性腕(22,23)を有し,相手コネクタ(30、図3参照)との嵌合時に,該複数の弾性腕(22,23)の弾性部(22B,23A)の先端側にそれぞれ形成された突状の接触部(22C,23B)が斜縁の直線部分との接触を通じて相手端子(31、図3参照)に一つの接触線上で順次弾性接触するようになっており,端子(20)は金属板の板面を維持したまま作られていて,該端子(20)の板厚方向に間隔をもってハウジング(10)に配列されている電気コネクタ(1)において,端子(20)の複数の弾性腕(22,23)は,相手端子(31)との接触位置を通りコネクタ嵌合方向に延びる接触線(X、図3参照)に対して一方の側に位置しており,上位の弾性腕(22)が上端から下方に延び上記接触線(X)に向う斜縁を有していて該斜縁の下端に接触部(22C)を形成し且つ該斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部(22C-1、図4(A)参照)が形成されており,上記複数の弾性腕(22,23)の接触部(22C、23B)は,下方に向け順に位置しており,上位に位置する弾性腕(22)の接触部(22C)に対して下位となる接触部(23B)を有する弾性腕(23)の上端が上記上位の弾性腕(22)の接触部(22C)に近接して位置付けられることにより有効嵌合長が長く確保されており,コネクタ嵌合時に相手端子(31)と最初に接触する接触部から順に相手端子に対する接触圧が小さくなっており,上位に位置する弾性腕(22)の弾性部(22B)の板面の幅が,下位に位置する弾性腕(23)の弾性部(23A)の板面の幅より大きいことを特徴とする多接点端子(20)を有する電気コネクタ。

4.本件審決の理由の要旨
本件訂正は,特許請求の範囲の減縮等を目的とするものであるところ,本件訂正発明は,本件出願前に頒布された下記刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。),下記刊行物2に記載された発明(以下「刊行物2発明」という。)及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件審判の請求は特許法126条7項の規定に適合しない,というものである。
ア 刊行物1:米国特許第3631381号明細書
イ 刊行物2:米国特許第3414871号明細書

ア 刊行物1発明の内容
コンタクト要素Cが複数のばね脚22,24を有し,プリント回路基板Bとの係合時に,該複数のばね脚22,24の弾性部の先端側にそれぞれ形成された側方突出部26,28が半円形突状の部分38,38との接触を通じて接触領域30に一つの接触線上で順次弾性接触するようになっており,コンタクト要素Cは導電体シートの板面を維持したまま作られていて,該コンタクト要素Cの板厚方向に間隔をもってレセプタクルRに配列されている超小型多重電気コネクタにおいて,コンタクト要素Cの複数のばね脚22,24は,接触領域30との接触位置を通りプリント回路基板Bの係合方向に延びる接触線に対して一方の側に位置しており,上位のばね脚22の上端に上記接触線に向う半円形突状の部分38を有している側方突出部26を形成し且つ該側方突出部26の下縁に凹部が形成されており,上記複数のばね脚22,24の側方突出部26,28は,下方に向け順に位置しており,上位に位置するばね脚22の側方突出部26に対して下位となる側方突出部28を有するばね脚24の上端が上記上位のばね脚22の側方突出部26に近接して位置付けられており,上位に位置するばね脚22の弾性部の板面の幅が,下位に位置するばね脚24の弾性部の板面の幅に等しい超小型多重電気コネクタ。

イ 本件訂正発明と刊行物1発明の一致点
「端子が複数の弾性腕を有し,相手コネクタとの嵌合時に,該複数の弾性腕の弾性部の先端側にそれぞれ形成された突状の接触部が接触を通じて相手端子に一つの接触線上で順次弾性接触するようになっており,端子は金属板の板面を維持したまま作られていて,該端子の板厚方向に間隔をもってハウジングに配列されている電気コネクタにおいて,端子の複数の弾性腕は,相手端子との接触位置を通りコネクタ嵌合方向に延びる接触線に対して一方の側に位置しており,上記複数の弾性腕の接触部は,下方に向け順に位置している多接点端子を有する電気コネクタ。」である点。

ウ 本件訂正発明と刊行物1発明の相違点
(ア) 相違点1
本件訂正発明は,複数の弾性腕にそれぞれ形成された突状の接触部が「斜縁の直線部分」との接触を通じて相手端子に順次弾性接触し,「上位の弾性腕が上端から下方に延び上記接触線に向う斜縁を有していて該斜縁の下端に接触部を形成し且つ該斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成されており」,「上位に位置する弾性腕の接触部に対して下位となる接触部を有する弾性腕の上端が上位の弾性腕の接触部に近接して位置付けられることにより有効嵌合長が長く確保され」ているのに対し,刊行物1発明は,複数のばね脚22,24にそれぞれ形成された側方突出部26,28が「半円形突状の部分38,38」との接触を通じて接触領域30に順次弾性接触し,「上位のばね脚22の上端に上記接触線に向う半円形突状の部分38を有している側方突出部26を形成し且つ該側方突出部26の下縁に凹部が形成されており」,「上位に位置するばね脚22の側方突出部26に対して下位となる側方突出部28を有するばね脚24の上端が上記上位のばね脚22の側方突出部26に近接して位置付けられて」いる点。

(イ) 相違点2
本件訂正発明は,「コネクタ嵌合時に相手端子と最初に接触する接触部から順に相手端子に対する接触圧が小さくなっており,上位に位置する弾性腕の弾性部の板面の幅が,下位に位置する弾性腕の弾性部の板面の幅より大きい」のに対し,刊行物1発明は,「上位に位置するばね脚22の弾性部の板面の幅が,下位に位置するばね脚24の弾性部の板面の幅に等しい」点。

5.取消事由
ア 刊行物1発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り,相違点の看過(取消事由1)
イ 相違点1についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)
ウ 相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由3)

6.当裁判所の判断
(1)取消事由1(刊行物1発明の認定の誤り,一致点の認定の誤り,相違点の看過)について
省略
(2)取消事由2(相違点1についての容易想到性判断の誤り)について
(ア)刊行物2の記載
ア 省略
イ 上記アの記載及び図面によれば,刊行物2には,次のようなコネクタが記載されているものと認められる。
「複数の弾性舌部の脚部の先端側にそれぞれ形成された突状の接触部が斜縁の直線部分との接触を通じてプリント回路基板23の電気コンタクトに一つの接触線上で順次弾性接触するようになっており,複数の弾性舌部は,プリント回路基板23の電気コンタクトとの接触位置を通り嵌合方向に延びる接触線に対して一方の側に位置しており,上位の弾性舌部が上端から下方に延び上記接触線に向う斜縁を有していて該斜縁の下端に接触部を形成し且つ該斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁を有しており,上記複数の弾性舌部の接触部は,下方に向け順に位置している入れ子式コネクタ。」(本件審決が「刊行物2発明」として認定したものと同じである。)
(イ)検討
本件審決は,刊行物1発明と刊行物2発明が多接点端子を有する電気コネクタとしての構造を共通にすることから,刊行物1発明に刊行物2発明を適用する動機付けがあることを認めた上で,刊行物1発明の側方突出部26,28に刊行物2発明を適用して,「斜縁の直線部分との接触を通じて相手端子に順次弾性接触し,上位の弾性腕が上端から下方に延び上記接触線に向う斜縁を有していて該斜縁の下端に接触部を形成し且つ該斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成され」るようにすることは当業者が容易になし得たことである旨判断し,この判断を前提として,刊行物1発明と刊行物2発明及び周知の技術事項(電気コネクタの技術分野において有効嵌合長を長く確保すること)に基づいて相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである旨判断する。
しかしながら,以下に述べるとおり,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用したとしても,上位の弾性腕の斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成とすることを当業者が容易に想到し得たものということはできない。
すなわち,まず,刊行物2記載のコネクタの複数の弾性舌部の脚部の先端側に形成された突状の接触部は,「斜縁の直線部分との接触を通じてプリント回路基板23の電気コンタクトに一つの接触線上で順次弾性接触するようになっており,複数の弾性舌部は,プリント回路基板23の電気コンタクトとの接触位置を通り嵌合方向に延びる接触線に対して一方の側に位置しており,上位の弾性舌部が上端から下方に延び上記接触線に向う斜縁を有していて該斜縁の下端に接触部を形成し且つ該斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁を有して」いるものの,当該下縁には「凹部」が形成されていないから(図9及び18参照),刊行物1発明の側方突出部26の構成を,刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成に単に置き換えたとしても,その下縁に「凹部」が形成される構成とならないことは明らかである。
そこで,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用することによりその下縁に「凹部」を形成する構成とするためには,刊行物1発明の側方突出部26の構成のうち,「下縁に凹部が形成され」た構成のみを残した上で,それ以外の構成を刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成と置き換えることが必要となる(本件審決も,このような置換えを前提として,その容易性を認めたものと理解される。)。しかしながら,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用するに際し,上記側方突出部26が備える一体的構成の一部である下縁の「凹部」の構成のみを分離し,これを残すこととすべき合理的な理由は認められない。そもそも,刊行物1発明の側方突出部26の下縁に凹部が形成されている理由については,刊行物1に何ら記載されておらず,技術常識等に照らして明らかなことともいえないから,当該構成の技術的意義との関係でこれを残すべき理由があると認められるものではない。したがって,当業者が,刊行物1発明の側方突出部26に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用するに当たり,刊行物1発明の側方突出部26における下縁の「凹部」の構成のみをあえて残そうとすることは,考え難いことというほかない。
してみると,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用したとしても,相違点1に係る本件訂正発明の構成のうち,上位の弾性腕の斜縁よりも嵌合側と反対側に位置する下縁に凹部が形成される構成とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないから,相違点1に係る本件審決の上記判断は誤りである。
なお,被告は,刊行物1発明に刊行物2発明を適用すべき動機付けが存在することについて前記第4の2のとおり主張するが,上記で述べたとおり,当該動機付けの存在を前提に,刊行物1発明に刊行物2記載のコネクタの弾性舌部に係る構成を適用したとしても,相違点1に係る本件訂正発明の構成とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえないのであるから,被告の主張は,上記判断を左右するものではない。
(ウ)小括
以上によれば,相違点1についての容易想到性を認めた本件審決の判断に誤りがあるとする原告主張の取消事由2は理由がある。

7.結論
以上のとおり,原告主張の取消事由1には理由がないが,取消事由2には理由があるから,取消事由3について判断するまでもなく,本件訂正発明の進歩性を否定し,本件訂正は特許法126条7項の規定に適合しないとした本件審決の判断は誤りであって,本件審決は取り消されるべきものである。よって,主文のとおり判決する。
以上