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判例紹介:「印刷物」審決取消請求事件

17.09.04 判例

【判決日】平成29年5月30日
【事件番号】平成28年(行ケ)第10190号 審決取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/772/086772_hanrei.pdf)
【キーワード】引用発明の認定,相違点の認定,相違点の判断
【判決要旨】
1.結論
原告の請求は理由がないから棄却する。
2.事案の概要
被告は,発明の名称を「印刷物」とする発明について特許出願をし,設定の登録を受けた。原告は,本件特許について特許無効審判を請求したところ,特許庁は,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本を原告に送達した。原告は,本件審決の取消を求める本件訴訟を提起した。
3.本件発明
[請求項1]
左側面部と中央面部と右側面部とからなる印刷物であって,
中央面部(1)は,所定の箇所に所定の大きさの分離して使用するもの(4)が印刷されていること,
左側面部(2)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分(5,6)に一過性の粘着剤が塗布されていること,
右側面部(3)の裏面は,当該分離して使用するもの(4)の上部,下部,右側部の内側及び外側に該当する部分(7,8)に一過性の粘着剤が塗布されていること,
当該左側面部(2)の裏面及び当該右側面部(3)の裏面が,前記中央面部(1)の裏面及び当該分離して使用するもの(4)に貼着していること
当該分離して使用するもの(4)の周囲に切り込みが入っていること,
からなることを特徴とする印刷物。
4.審決で認定された引用発明の内容および本件発明1との相違点
(1)引用発明1の内容
情報記録体がCD,LD,DVD等のディスクやICカード等であり,シート状基材の内側にディスクやカード類の形状が打ち抜かれたもので,・・・シート状基材Sは折り部3で2つ折りしたものであり,4,5の各シート状基材同士は疑似接着部分6で剥離可能に疑似接着されており,4側に形成されている情報記録体1は,下側のシート状基材5に疑似接着しているシート状の基材であって,2つ折り以上の3つ折り以上も可能で,その場合には巻き折りやZ折り,観音開き折り等の各種形態が採用できるシート状の基材。
(2)引用発明2の内容
カード部1を備えた葉書本体2と,この葉書本体2に連続した表面シート3,及び裏面シート4により構成され,カード部1は,テレフォンカードと略同一の大きさのものであり,その周囲はトムソン加工された切断予定線11で囲まれており,カード部1を葉書本体2から容易に切り離すことができ,・・・細長のシートを『Z』の形状に折り曲げて,葉書本体2と表面シート3,及び葉書本体2と裏面シート4をそれぞれ剥離可能に圧着した葉書。
(3)相違点(『』は裁判所の判断における相違点の説明文)
(ア)相違点1:省略
(イ)相違点2:引用発明1において,「中央面部」に,情報記録体(所定の大きさの分離して使用するもの)があるのか否か明らかでない点。(『情報記録体をシート状基材のどの位置に配置するかに関するもの』)
(ウ)相違点3:本件発明1においては,「左側面部の裏面は,当該分離して使用するものの上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されていること」,「右側面部の裏面は,当該分離して使用するものの上部,下部,右側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されていること」,及び「当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面が,当該分離して使用するものに貼着している」のに対し,引用発明1においては,その点につき,明らかでない点。(『情報記録体を配置する位置との関係において,シート状基材をどのように折り畳むかに関するもの』)
(エ)相違点4:本件発明1は,「左側面部の裏面は,当該分離して使用するものの上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されること」,「右側面部の裏面の当該分離して使用するものの上部,下部,左側部の内側及び外側に該当する部分に一過性の粘着剤が塗布されること」,「当該左側面部の裏面及び当該右側面部の裏面が,中央面部の裏面及び当該分離して使用するものに貼着していること」であるのに対し,引用発明2は,「Z」の形状に折り曲げて,葉書本体2と表面シート3,及び葉書本体2と裏面シート4をそれぞれ剥離可能に圧着して,葉書Hを形成するものである点。(『カード部を,表面シート及び裏面シートとどのように貼着するかに関するもの』)
(オ)相違点5,6:省略
5.引用発明1に基づく進歩性に係る判断の誤り(取消事由4)についての裁判所の判断
(1)引用発明1において,相違点2及び3に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたか否かについて検討する。
(2)引用発明1への甲5発明の適用
ア 甲5文献に記載された事項
“C”字形状パッケージ10では,カード12は,折り畳まれた3つのパネル用材32mの内側にあるカード担体75aに取り付けられており,窓20を通してカードが見えるようになっている。・・・カード12は接着剤でカード担体の表面に接着されているが,・・・カードをカード担体から切り離すということもある・・・カードが取り付けられたカード担体75aは,第2パネルの上部折り目線54と下部折り目線54cとの間に配置される。図16Aからわかるように,接着剤地点85は上部パネル16の両端の上部の角84に設けられていて,上部パネルを下部パネル18に接着する。
イ 構成の相違
引用発明1は,シート状基材に情報記録体を形成し,それを容易に分離可能に形成したことを特徴とする。・・・一方,甲5発明は,折り畳まれるパネル用材と,カードが一体に作られるカード担体とは別個のものである。また,“C”字形状に巻き折りをした上部パネル及び下部パネルは,・・・カードないしカード担体に貼着されるものでもない。このように,引用発明1と甲5発明は,その構成が大きく相違するものである。
ウ 目的の相違
引用発明1は,情報記録体をシート状基材に形成し,そのままで受取人に配達することを可能にすることにより,封筒代等のコストを削減し,また,封入等の手間を省くことを目的とするものである。一方,甲5発明は,カードを,特に販売場所において,パッケージに取り付けて展示するために,新規の改良されたカード用組み立て式パッケージを提供することを目的とするものである。カードを配達するに当たってのコストの削減とは無関係な発明であり,また,カードないしカード担体をパッケージに取り付けることが前提となっており,カード等をパッケージに取り付ける手間を省くことを目的とするものでもない。このように,引用発明1と甲5発明は,その目的も大きく相違するものである。
エ 以上のとおり,引用発明1と甲5発明は,その構成も目的も大きく相違することからすれば,引用発明1に,甲5発明を組み合わせる動機付けはないというべきである。
6.引用発明2に基づく進歩性に係る判断の誤り(取消事由5)についての裁判所の判断
(1)引用発明2において,相違点4に係る本件発明1の構成を備えるようにすることを,当業者が容易に想到することができたか否かについて検討する。
(2)引用発明2への甲8技術の適用
ア 甲8文献に記載された事項
第8の実施例のメールフォーム1Gは,基材11を両側から折り返して,中央部にスリット状の重なり合わない部分を残して,剥離の切っ掛けとする剥離開始部2bとしたものである。開封時には,剥離開始部2bの裏側を押すようにしながら,観音開きのようにして剥離することができる。
イ 甲8技術を組み合わせる動機付け
(ア)構成,目的,作用効果の相違
甲8技術には,カード部が存在しない。また,甲8技術は,弱粘着剤層間から剥離する3つ折りメールフォームによって印字層を隠ぺいすることを前提に,接着力を強めても容易に剥離できるメールフォームを提供することを目的とする。そして,甲8技術は,剥離のきっかけとなるスリット状の重なり合わない部分を形成することにより,その裏側から押すようにすれば容易に剥離可能にしたものである。そうすると,カード部の存在を前提とし,当該カード部の分離やカード部の保護に着目した発明である引用発明2に,カード部が存在しない構成であって,カード部に関する目的,作用効果を有しない甲8技術を組み合わせる動機付けはないというべきである。
(イ)原告の主張
原告は,引用発明2と甲8技術は,折り畳みはがきとして技術分野が共通し,用紙を折り畳んで重なり合う面を疑似接着させたものであるから作用機能も共通すると主張する。確かに,引用発明2と甲8技術は,いずれも折り畳みはがきであって,用紙を折り畳んで重なり合う面も疑似接着されている。また,引用発明2は,カード部の記録内容を外部に露出させないためにはがき本体をシートで覆ったものであり,甲8技術は,印字層を隠ぺいすることを前提とするものであり,目的においても共通する点はある。しかし,前記のとおり,引用発明2は,カード部の存在を前提としており,甲8技術との間で,構成,目的,作用効果の点で大きく相違するものである。したがって,引用発明2と甲8技術との間で前記のとおり共通点があるとしても,これをもって,引用発明2に甲8技術を組み合わせる動機付けがあるということはできない。
ウ 引用発明2に甲8技術を適用した場合の論理付け
(ア)引用発明2は,はがき本体に,周囲を切断予定線で囲まれたカード部を備えたものであるが,甲8技術には,そもそも,カード部が存在しない。そうすると,仮に引用発明2に甲8技術を適用したとしても,カード部を配置する位置との関係で,基材をどのように折り畳むのかについては何ら特定されない。一方,相違点4は,カード部を,表面シート及び裏面シートとどのように貼着するかに関するものである。したがって,引用発明2に,甲8技術を適用しても,相違点4に係る本件発明1の構成には至らない。
(イ)原告の主張
原告は,引用発明2に,甲8技術を適用する場合において,甲8文献や技術常識に従った観音開き折り形態にすると,はがき本体とカードの大きさの関係から,必然的に,表面シート及び裏面シートの両方がカードに重なって貼着すると主張する。
しかし,甲8文献には,「基材11の任意の位置,任意の方向にスリットを形成してもよい」と記載されており,基材11を両側から折り返す場合において,どのような観音開き折り形態とするかについては,何ら特定されていない。また,カード部が中央面部に存する場合における観音開き折り形態において,中央面部に折り畳む左側面部と右側面部の左右方向の幅を同じにすることが技術常識であるということもできない。したがって,引用発明2に,甲8技術を適用した場合に,必然的に,表面シート及び裏面シートの両方がカードに重なって貼着することになるということはできない。
エ 引用発明2に甲8技術を適用することの阻害事由
引用発明2の技術的意義には,はがき本体を表面シート及び裏面シートにより覆うことにより,カード部を破損や汚損から保護し,また,カード部に記録された二次元コード領域を外部に露出させずに,セキュリティー上の問題も生じさせないというものが含まれる。これに対し,甲8技術は,スリット状の重なり合わない部分を残して,基材を両側から折り返すものであって,剥離開始部の裏側を押すようにしながら,観音開きのようにして剥離して開封することにより,自着力を強めても容易に剥離できるメールフォームを提供するものである。そうすると,引用発明2に,甲8技術を適用した場合,カード部がシートに覆われない部分が生じることになり,カード部を破損や汚損から保護し,また,カード部に記録された二次元コード領域を外部に露出させないという引用発明2に含まれる技術的意義が損なわれることになる。したがって,引用発明2に,甲8技術を適用することには,阻害事由が存するというべきである。
オ よって,引用発明2に,甲8技術を適用することにより,当業者が,本件発明1について,容易に発明をすることができたということはできない。
以上