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判例紹介:「登記識別情報保護シール」審決取消請求事件

18.05.09 判例

【判決日】平成30年3月28日

【事件番号】平成29年(行ケ)第10176号 審決取消請求事件

(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/679/087679_hanrei.pdf)

【キーワード】進歩性、動機付け

【判決要旨】

第1.結論

1 特許庁が無効2017-800011号事件について平成29年8月21日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

第2.事案の概要

 原告が請求した特許無効審判の不成立審決に対する取消訴訟である。争点は,サポート要件(特許法36条6項1号)違反の有無及び進歩性の有無についての判断の当否である。

1 手続の経緯

被告は,平成27年3月20日(以下,「本件原出願日」という。)に出願された実用新案登録第3198127号に基づいて,平成28年1月21日に出願され(特願2016-21270号),同年11月11日に設定登録がされた特許(以下,「本件特許」という。特許第6035579号。発明の名称「登記識別情報保護シール」)の特許権者である。

原告は,平成29年1月30日,本件特許の無効審判請求をしたところ(無効2017-800011号),特許庁は,平成29年8月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月31日に原告に送達された。

2 本件発明の要旨

(1)特許請求の範囲(請求項1から4のうち請求項1を記載)

【請求項1】

登記識別情報通知書の登記識別情報が記載されている部分に貼り付けて登記識別情報を隠蔽・保護するための、一度剥がすと再度貼り直しできない登記識別情報保護シールであって、前記登記識別情報保護シールを構成する粘着剤層の少なくとも前記登記識別情報に接触する部分には前記登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有することを特徴とする登記識別情報保護シール。

(2)課題

 本発明は、・・・登記識別情報通知書記載の登記識別情報を有効に隠蔽・保護するとともに、登記識別情報が読み取り不能になることのない登記識別情報保護シールを提供することを目的とするものである。

3 審決の理由の要旨

(1)原告が主張した無効理由

ア 無効理由1

請求項1において,「一度剥がすと再度貼り直しできない」と機能的に記載された発明特定事項を含んで特定される発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから,本件発明1~4は,特許法36条6項1号の規定する要件を満たしておらず,その特許は同法123条1項4号の規定に該当し,無効とすべきものである。

イ 無効理由2

本件発明1~4は,甲1及び甲2に記載された発明,又は甲1及び甲3に記載された発明に基づいて,出願前に,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものである。

(2)無効理由1についての判断(省略)

(3)無効理由2についての判断

ア 引用発明の認定(符号は添付図面参照)

(ア)甲1発明

「登記識別情報通知書が法務局から下付された際に登記識別情報を秘匿していた目隠しシールを前記登記識別情報通知書から剥がした後に前記登記識別情報を秘匿するための一度剥がすと貼り直しができない登記識別情報保護シール(100)。」

(イ)甲2発明(省略)

(ウ)甲3発明

「被着体(1)の情報表示部(2)を視認不能に覆う不透明部を備えたシート体(4)から成り,前記情報表示部(2)の周部に位置して前記シート体(4)に剥離可能な印刷層(7)を形成すると共に,該印刷層(7)上に該シート体(4)を被着体に接着するための感圧性接着剤層(8)を積層して成り,シート体(4)を被着体(1)より剥離すると,印刷層(7)はシート体(4)に対して剥離可能である一方,感圧性接着剤層(8)に接着されているから,引き剥がされるシート体(4)に追従することなく,該印刷層(7)の少なくとも一部は接着剤層(8)上に転移して,シート体(4)を被着体(1)に再度接着させようとしても,シート体(4)は前記剥離された印刷層(7)上には接着せず分離状態にあり,元の状態には復帰しない秘密保持シート。」

イ 本件発明1について

(ア)本件発明1と甲1発明との対比(甲2発明に関する箇所は省略)

(相違点)

本件発明1は,「粘着剤層の少なくとも登記識別情報に接触する部分には登記識別情報通知書に粘着しない非粘着領域を有する」のに対し,甲1発明は,そのようなものではない点。

イ ・・・ところで,甲3文献には,本件課題は記載も示唆もされていない。また,甲3発明は,例えば,個人情報(秘密情報)が記載された葉書に使用し,被着体に接着されたシート体を剥離して,情報表示部に記載された秘密情報を閲覧するもので,再度,当該被着体に新たなシート体を接着して使用することは想定していない。

そうすると,甲3発明において,シート体を被着体に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,感圧性接着剤層が多数積層して,閲覧する秘密情報が読み取れにくくなるといった課題が,自明であるとはいえない。

また,甲1発明は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返しても,登記識別情報が解読不能とならなくするための機能,作用を有するものではない。

したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けはない。また,上記相違点に係る本件発明1の発明特定事項が,当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。甲1発明において,他に相違点に係る本件発明1の発明特定事項を備えるものとすることを,当業者が容易に想到し得たといえる根拠も見当たらない。

よって,甲1発明において,甲3発明を適用することにより,相違点に係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得るものではない。

4 当裁判所の判断

4-1 取消事由1(サポート要件違反)について(詳細は省略)

 取消事由1には理由がない。

4-2 取消事由2(甲1発明および甲3発明に基づく相違点の判断の誤り)について

(1)甲1発明に甲3発明を適用する動機付け

登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと,粘着剤層が多数積層して,登記識別情報を読み取りにくくなるという登記識別情報保護シールにおける本件課題は,登記識別情報保護シールを登記識別情報通知書に何度も貼り付け,剥離することを繰り返すと必然的に生じるものであって,登記識別情報保護シールの需要者には当然に認識されていたと考えられる。現に,本件原出願日の5年以上前である平成21年9月30日には,登記識別情報保護シールの需要者である司法書士に認識されていたものと認められる(甲9)。そして,登記識別情報保護シールの製造・販売業者は,需要者の要求に応じた製品を開発しようとするから,本件課題は,本件原出願日前に,当業者において周知の課題であったといえる。

そうすると,本件課題に直面した登記識別情報保護シールの技術分野における当業者は,フィルム層(粘着剤層)の下の文字(登記識別情報)が見えにくくならないようにするために,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがないように工夫するものと認められる。甲3発明と甲1発明は,秘密情報保護シールであるという技術分野が共通し,一度剥がすと再度貼ることはできないようにして,秘密情報の漏洩があったことを感知するという点でも共通する。したがって,甲1発明に甲3発明を適用する動機付けがあるといえる。

甲1発明に甲3発明を適用すると,粘着剤層が登記識別情報の上に付着することがなくなり,本件課題が解決される。したがって,甲1発明において,甲3発明を適用し,相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到するものと認められる。

5 結論

以上のとおり,原告の請求には理由があるから審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

第3 感想

 本判決では、主引用発明に副引用発明を適用する動機付けの根拠の一つである課題の周知性について、当該課題が出願時に需要者に認識されていたか否かに基づいて判断されている。

判決では、当該課題が出願時に需要者に認識されていたか否かについて、証拠を挙げて慎重に判断していることから、審査時に同様のアプローチで動機付けがあるか否を判断されるケースはそう多くはなさそうであるが、権利化後の無効審判などでは同様のアプローチで動機付けがありと判断される可能性があることに留意すべきだと思った。

以上