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平成29年(ネ)第10090号特許権侵害差止請求控訴事件

18.06.12 判例

【判決日】平成30年4月4日
【事件番号】平成29年(ネ)第10090号 特許権侵害差止請求控訴事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/681/087681_hanrei.pdf)
【キーワード】先使用権
【判決要旨】
1.結論
 控訴人が、本件出願日までに製造していたサンプル薬の水分含量は,いずれも本件発明2の範囲内(1.5~2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
 控訴人が、本件出願日までに製造していたサンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。
 したがって,控訴人は,発明の実施である事業の準備をしている者には当たらないから,本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められない。

2.事案の概要
 本件は,名称を「医薬」とする発明に係る特許権(特許第5190159号)を有する被控訴人が,被告製品は本件特許の請求項2に係る発明(本件発明2)の技術的範囲に属すると主張して,控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,販売及び販売の申出の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求める事案である。
 被告製品が本件発明2の技術的範囲に属することは当事者間に争いがないところ,原審は,控訴人は先使用権を有するとは認められず,本件発明2についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとも認められないとして,被控訴人の請求をいずれも認容した。
 そこで,控訴人が原判決を不服として控訴した。

3.発明の内容
【請求項1】
 次の成分(A)及び(B):
(A)ピタバスタチン又はその塩;
(B)カルメロース及びその塩、クロスポビドン並びに結晶セルロースよりなる群から選ばれる1種以上;
を含有し、かつ、水分含量が2.9質量%以下である固形製剤が、気密包装体に収容してなる医薬品。
【請求項2】(本件発明2)
 固形製剤の水分含量が1.5~2.9質量%である、請求項1記載の医薬品。

4.争点
相違点1:被告は先使用権を有するか
(相違点2:本件発明2についての特許は特許無効審判により無効とされるべきものか)

5.知財高裁の判断
(1)・・・特許法79条にいう「発明の実施である事業…の準備をしている者」とは,少なくとも,特許出願に係る発明の内容を知らないで自らこれと同じ内容の発明をした者又はこの者から知得した者でなければならない(最高裁昭和61年(オ)第454号・同年10月3日第二小法廷判決・民集40巻6号1068頁参照)。
 よって,控訴人が先使用権を有するといえるためには,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明でなければならない。
(2)サンプル薬の水分含量
 控訴人は,サンプル薬の水分含量を測定しているところ,・・・サンプル薬の製造時から測定時まで4年以上もの期間が経過している。
 これらのサンプル薬には,本件発明2と同様に極めて吸湿性の高い崩壊剤が含まれるものであって,・・・サンプル薬の水分含量は容易に増加し得るものである。
・・・・・
 上記リーク試験の結果をもって,実際に用いられたアルミピロー包材が気密性を有していたと確定することはできない。そうすると,サンプル薬が,長期間にわたって,アルミピロー包装下で保管されている間に,湿気の影響を受けて水分含量が増加した可能性も,十分にあり得るものである。
 ・・・・サンプル薬と実生産品との間で,B顆粒の水分含量の管理範囲が●●から●●へと変更されている。また,A顆粒及びB顆粒以外の添加剤の水分含量,打錠時の周囲の湿度,気密包装がされるまでの管理湿度などの点において,サンプル薬と実生産品との製造工程が同一であることを示す証拠はない。
・・・サンプル薬の顆粒の水分含量を基に算出すれば,サンプル薬の水分含量は本件発明2の範囲内にはない可能性を否定できない。
 以上のとおり,サンプル薬を製造から4年以上後に測定した時点の水分含量が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の製造時の水分含量も同様に本件発明2の範囲内であったということはできない。また,実生産品の水分含量が本件発明2の範囲内であるからといって,サンプル薬の水分含量も同様に本件発明2の範囲内であったということはできない。
 そうすると,控訴人が,本件出願日までに製造し,治験を実施していた・・・サンプル薬の水分含量は,いずれも本件発明2の範囲内(1.5~2.9質量%の範囲内)にあったということはできない。
(3)サンプル薬に具現された技術的思想
 仮に,本件・・・サンプル薬の水分含量が1.5~2.9質量%の範囲内にあったとしても,以下のとおり,サンプル薬に具現された技術的思想が本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。
 本件発明2は,・・・固形製剤の水分含量に着目し,これを2.9質量%以下にすることによってラクトン体の生成を抑制し,これを1.5質量%以上にすることによって5-ケト体の生成を抑制し,さらに,固形製剤を気密包装体に収容することにより,水分の侵入を防ぐという技術的思想を有するものである。
(ア)控訴人が,本件出願日前に,サンプル薬の最終的な水分含量を測定したとの事実は認められない。
(イ)・・・サンプル薬に含有されるA顆粒及びB顆粒の水分含量について,●●にする旨定められているからといって,控訴人が,サンプル薬の水分含量が一定の範囲内になるよう管理していたということはできない。
(ウ)・・・B顆粒の水分含量の管理範囲が●●から●●へと変更されている。控訴人は,サンプル薬の水分含量には着目していなかったというほかない。
 以上の通り、本件発明2は,・・・固形製剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内にするという技術的思想を有するものであるのに対し,サンプル薬においては,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内又はこれに包含される範囲内に収めるという技術的思想はなく,また,錠剤の水分含量を1.5~2.9質量%の範囲内における一定の数値とする技術的思想も存在しない。
 そうすると,サンプル薬に具現された技術的思想が,本件発明2と同じ内容の発明であるということはできない。
・・・したがって,控訴人は,発明の実施である事業の準備をしている者には当たらないから,本件発明2に係る特許権について先使用権を有するとは認められない。

【参考】
(先使用による通常実施権)
第七十九条 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する。

【ひとこと】
・サンプル薬の水分含量が本件発明2の範囲内(1.5~2.9質量%の範囲内)にあったといえないとの判断は妥当だと思います。
・今回の判例では、さらに、仮に水分含量が本件発明2の範囲内にあった場合でも、技術的思想が同じでないとして、先使用権の存在が否定されています。すなわち、特許出願前の自社の製品等が特許発明の技術的範囲に入っているだけでは先使用権の根拠にはならず、特許出願前の製品等の「技術的思想」が特許発明と同じ(又はその範囲内)である必要があると判示されました。この判決に従うと、特にパラメータの発明に関して先使用権の立証を行うことは非常に難しい場合が多いと思われ、第三者側にとっては酷なように思います。
・他人の特許発明の内容を予測することはできませんが、製品自体の数値だけでなくその管理値(数値範囲)を残しておくことや、明細書等の形式の文書を作成しておくことで、「技術的思想」を創作していたことの証拠を残しておくと、先使用権の立証に役立つ場合がありそうです。

以上