“強い特許”の取得なら、知的財産のエキスパート集団、アイテックにお任せください

特許業務法人 アイテック国際特許事務所 ITEC International Patent Firm

新着情報

判例紹介:「ライスミルク」特許取消決定取消請求事件

18.06.26 判例

【判決日】平成30年5月24日
【事件番号】平成29年(行ケ)第10129号 特許取消決定取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/774/087774_hanrei.pdf)
【キーワード】サポート要件

1.事案の概要
 本件は,発明の名称を「米糖化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品」とする原告の特許について,特許異議の申立てがあり,特許法36条6項1号違反を理由に特許が取り消されたため,同取消決定の取消しを求めて,原告が出訴した事案である。

2.本件発明の内容
【請求項1】(本件発明1)
 米糖化物,及びγ-オリザノールを1~5質量%含有する米油を含有するライスミルクであって,当該米油を0.5~5質量%含有するライスミルク。

3.平成17年(行ケ)第10042号大合議判決
 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

4.異議決定の内容
本件発明1の課題は、本件特許明細書の「コク、甘味、美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」(【0006】)との記載及び実施例(【0031】~【0043】)において、「コク(ミルク感)」、「甘み」及び「美味しさ」の各評価項目について評価を行っていることから、「コク、甘味、美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認められる。
 一方、本件出願に対する平成27年4月21日付け拒絶理由通知に引用され、本件特許異議申立に証拠として提示された甲第1号証である米国特許出願公開第2004/0213890号明細書(【0032】、【0034】)に記載の米油を2重量%含有するライスミルク、及び一般の米油がγ-オリザノールを0.1~0.5質量%含有することは、いずれも周知である。よって、本件発明1において、ライスミルクにγ-オリザノールを含有する米油を0.5~5質量%含有すること自体は、上記課題を解決する上で特別な技術的特徴とはいえない。そうすると、本件発明1は、上記課題を解決する上で、ライスミルクに含有させる米油のγ-オリザノールの含有割合に技術的特徴があるものと認められる。
 なお、特許権者も平成27年4月21日付け拒絶理由に対する平成27年6月26日の意見書において、「実施例1-2(米油がγ-オリザノールを1.5質量%含む米油)は、実施例1-1を基準にして、コク(ミルク感)、甘味及び美味しさの全ての項目について有意差を示しております。したがって、ライスミルクに含まれる米油が、γ-オリザノールを1質量%以上含むことにより、コク(ミルク感)、甘味及び美味しさに関する予想外の効果を奏することは明らかです。」と主張している。
 本件発明1の課題は、上記のとおり、具体的には、実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感)、甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供することであり、本件発明1は、特定量のγ-オリザノールを含有する米油を特定量ライスミルクに含有させることで上記課題を解決するものである。そうすると、本件発明1が課題を解決できると認識できるためには、γ-オリザノールの含有量が1質量%の米油から5質量%の米油のすべてについて、それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって、実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感)、甘味及び美味しさについて優位な差を有することを認識できることが必要である。
 本件特許明細書の記載からは、γ-オリザノールを1.5質量%含有する米胚芽油を3質量%含有するライスミルクについては、本件発明1の課題を解決できるものと一応認識できるとしても、本件優先日時点の技術常識を参酌しても、γ-オリザノールを1.5質量%含有する米胚芽油を3質量%含有するライスミルク以外のライスミルクであって、γ-オリザノールを1~5質量%含有する米油すべてについて、それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって、本件発明1の課題を解決できることまでは認識できないから,本件発明1は、サポート要件を満たしているとはいえない。

5.裁判所の判断
 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件(サポート要件)に適合するものでなければならないと定めている。その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利を認めることになり,特許制度の趣旨に反するから,そのような特許請求の範囲を許容しないとしたものである。
 したがって,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,大合議判決の示すとおりである。
 記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても(発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がない限りは)同様であるといえる。したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。
 これを本件発明に関していえば,決定も一旦は発明の詳細な説明の記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない。したがって,決定が課題を「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を上げて)課題を再設定するものであり,相当でない。決定は,上記のとおり,サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤り,その結果,サポート要件違反を理由とする特許取消しの判断を導いたのであるから,違法なものとして取り消されるべきである。

以上