“強い特許”の取得なら、知的財産のエキスパート集団、アイテックにお任せください

特許業務法人 アイテック国際特許事務所 ITEC International Patent Firm

新着情報

判例紹介:平成29年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件

18.08.06 判例

【判決日】平成30年4月16日判決言渡
【事件番号】平成29年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件
【口頭弁論終結日】平成30年3月26日
【判例要旨】
第1 主文
 特許庁が不服2016-4465号事件について平成29年2月20日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要
 1.特許請求の範囲の記載(本願補正発明)
 【請求項1】(下線部は,拒絶査定不服審判請求時の補正による補正箇所を示す。)
 レーダー送信機及びレーダー受信機を備えるレーダーセンサを用いてホスト自動車の外部の環境で1又は複数のターゲット物体をモニタリングするための装置であって,
 前記装置は,前記ホスト自動車と前記1又は複数のターゲット物体との間の所定の相対移動の検知に応答して少なくとも1のアクションを始動するように構成され,
 前記装置は,前記ホスト自動車の延伸軸からの前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の距離である横方向オフセット値を判断し,前記横方向オフセット値に基づいて前記少なくとも1のアクションの始動が行われないように,前記少なくとも1のアクションの始動を無効にし,
 前記装置は,前記レーダーセンサの出力に応じて前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の前記横方向オフセット値を判断するように構成された装置。
 2.本件審決の理由の要旨
 本願補正発明は,引用例(特開2005-28992号公報)に記載された発明,並びに,周知例1(特開昭58-112847号公報)及び周知例2(実公昭53-32427号公報)から認められる周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は却下すべきものであり、本願発明は,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許を受けることができない
 3.本願補正発明と引用発明との相違点
 本願補正発明では,ターゲット物体又は各ターゲット物体の「横方向オフセット値に基づいて前記少なくとも1のアクションの始動が行われないように,前記少なくとも1のアクションの始動を無効にし」ているのに対し,引用発明では「各特定存在物Cnの変位量ΔQ’(Cn)の絶対値」,つまり,「幅方向において自車線中心線COLからどの程度離れているか」の値(本願補正発明における「横方向オフセット値」に相当する。)が,「自車線幅WOLより大きい場合に,制御における対象から外され」,「絞込み」により除外されたその「特定存在物」については,「自車線上に存在」しないと「判定」し,これにより,「v)ACC・PCS作動ルーチン」における「PCS制御」や「減速ACC制御」の「制御における対象から外され」,「作動装置」の「作動が開始」することはないものの,「作動装置」の「作動が開始」することを無効にする,とは明記されていない点。

第3 原告の主張
 本願補正発明の装置は,「前記ホスト自動車の延伸軸からの前記ターゲット物体又は各ターゲット物体の距離である横方向オフセット値を判断し,前記横方向オフセット値に基づいて前記少なくとも1のアクションの始動が行われないように,前記少なくとも1のアクションの始動を無効」にする。本願補正発明は,本来,所定のアクションが始動される状況下であっても,レーダーセンサの出力に応じて判断されたターゲット物体又は各ターゲット物体の横方向オフセット値に基づいて,前記所定のアクションの始動が行われないように,前記所定のアクションの始動を無効にすることができるものである。
 一方,引用発明は,「各特定存在物Cnの変位量ΔQ’(Cn)の絶対値が,自車線幅WOLより大きい場合に,制御における対象から外され,特定存在物Cnの絞込みが行われ」,その「絞込み」により除外された「特定存在物Cn」については「自車線上に存在」しないと「判定」される。「制御における対象から外され」た「監視対象としての前方存在物である特定存在物Cn」については,「自車両との相対位置関係等」に基づいて「作動装置」の「作動が開始」されることはない。このような特定存在物の絞込みは,本来ACC制御及びPCS制御が始動される状況下において,レーダー装置14による探知に基づいて,そのようなACC制御やPCS制御が行われないようにこれらの始動を無効にするものではない。そして,特定存在物が作動装置の作動の対象から一旦外れた場合,作動装置はその特定存在物に対して作動しないから,作動装置の始動を無効にする必要性はない。周知例1及び2に記載された技術は,ブレーキの作動の阻止にドライバーの積極的なトリガー動作(ターンシグナルスイッチSWを入れること)を必要とする技術である。ドライバーの積極的なトリガー動作に基づき特定の条件が満たされるとするものであり,本来作動装置の作動が開始されるべき状況下において,その開始を自動的に無効にするものではない。本件周知技術は,特定存在物が作動装置の作動の対象から外れていないことを前提とする。よって,仮に,本件審決が認定したとおり,本願補正発明と引用発明との相違点が認められるとしても,当業者は,引用発明に,本件周知技術を適用することによ
り,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に想到できたものではない。

第4 裁判所の判断
 1.相違点の容易想到性
(1)本件周知技術
 周知例1及び2から,「自動車のブレーキ等の作動を自動的に制御するに当たり,特定の条件を満たした場合は,作動装置(ブレーキ)の作動が行われないように,作動装置の始動(ブレーキを働かせる信号)を無効にすること」との本件周知技術が認められることは,当事者間に争いがない。
(2)相違点の容易想到性判断
(ア)引用発明
 引用発明の衝突対応車両制御は,衝突対応制御プログラムが実行されることによって行われる。同プログラムは,S1の自車線上存在物特定ルーチン及びS2のACC・PCS対象特定ルーチンにおいて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後に処理されるS5のACC・PCS作動ルーチンにおいて,自車両の速度,ブレーキ操作部材の操作の有無,自車両と直前存在物との衝突時間や車間時間等の条件に応じて,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないというものである。
(イ) 条件判断の順序の入替えについて
 本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始動を無効にするという構成が採用されている。したがって,引用発明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめるためには,少なくとも,まず,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を行い,続いて,特定のACC制御やPCS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行うという引用発明の条件判断の順序を入れ替える必要がある。
 しかし,引用発明では,S1及びS2において,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断される。この条件は,ACC制御,PCS制御の対象となる前方存在物を特定するためのものである(引用例【0091】)。そして,引用発明は,これにより,多数の特定存在物の中から,自車線上にある存在物を特定し,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込み,ACC制御,PCS制御のための処理負担を軽減することができる。一方,ACC制御,PCS制御の対象となる存在物を絞り込まずに,ACC制御,PCS制御のための処理を行うと,その処理負担が大きくなる。このように,引用発明において,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を,ACC制御,PCS制御のための処理の前に行うか,後に行うかによって,その技術的意義に変動が生じる。
 したがって,複数の条件が成立したときに特定のアクションを始動する装置において,複数の条件の成立判断の順序を入れ替えることが通常行い得る設計変更であったとしても,引用発明において,まず,特定のACC制御やPCS制御を開始するために自車両の速度等の条件判断を行い,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を行うという構成を採用することはできない。よって,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが,単なる設計変更であるということはできないから,相違点に係る本願補正発明の構成は,容易に想到することができるものではない。
(ウ)本件周知技術の適用
 a 引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更であったとしても,条件判断の順序を入れ替えた引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないものになる。そして,これに本件周知技術を適用できたとしても,本件周知技術を適用した引用発明は,まず,自車両の速度等の条件判断がされ,続いて,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断され,その後,特定のACC制御やPCS制御が開始され,又は開始されないものになり,加えて,特定の条件を満たした場合には,当該ACC制御やPCS制御の始動が無効になるにとどまる。ここで,本件周知技術を適用した引用発明は,特定の条件を満たした場合に,PCS制御等の始動を無効にするものである。そして,本件周知技術を適用した引用発明においては,PCS制御等の開始に当たり,既に,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性が判断されているから,自車線上の存在物であるか否かという条件を,再度,PCS制御等の始動を無効にするに当たり判断される条件とすることはない。
 これに対し,相違点に係る本願補正発明の構成は,「横方向オフセット値に基づいて」,すなわち,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断に基づいて,少なくとも1のアクションの始動を無効にするものである。したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきである。
 b なお,本件周知技術を適用した引用発明は,自車両の速度等の条件判断と,それに続く,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断をもって,PCS制御等を開始するものである。PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことについて,引用例には記載も示唆もされておらず,このことが周知慣用技術であることを示す証拠もない。したがって,引用発明に本件周知技術を適用しても,その発明は相違点に係る本願補正発明の構成には至らないところ,さらに,PCS制御等の開始を,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断よりも前に行うことにより,当該発明を,相違点に係る本願補正発明の構成に至らしめることができるものではない。
 c そもそも,本願補正発明では,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するように構成された後に,自車線上にある存在物を特定し,アクションの始動を無効にするという構成が採用されている。本願補正発明は,ターゲット物体との相対移動の検知に応答してアクションを始動するという既存の構成に,当該構成を変更することなく,単に,自車線上の存在物であるか否かという条件の充足性判断を付加することによって,アクションの始動を無効にするというものであり,引用発明とは技術的思想を異にするものである。
(エ)以上のとおり,引用発明における条件判断の順序を入れ替えることが単なる設計変更ということはできず,また,引用発明に本件周知技術を適用しても,相違点に係る本願補正発明の構成には至らないというべきであるから,相違点に係る本願補正発明の構成は,引用発明に基づき,容易に想到できたものとはいえない。
以上