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判例紹介:「美容器」審決取消請求事件

18.10.22 判例

【判決日】平成30年9月4日判決言渡
【事件番号】平成30年(行ケ) 第10013号 審決取消請求事件(http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/968/087968_hanrei.pdf)
【キーワード】進歩性
【結論】原告の請求を棄却する。
【請求】特許庁が無効2016-800099号について平成30年1月5日にした審決を取り消す。 
【事件の概要】
1.特許庁における手続の経緯
(1)特許出願  平成26年10月27日(平成23年11月16日にした特願2011-250916号の分割出願)
(2)設定登録  平成27年 2月27日(特許第 5702019)
(3)無効審判  平成28年 8月 9日(無効 2016-800099号)
(4)訂正請求  平成29年10月10日
(5)審決    平成30年 1月 5日(訂正を認めた上で「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決)
(6)本訴    平成30年 1月15日
【本件発明の要旨】
【請求項1】 ハンドルの先端部に一対の回転体を, 相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した美容器において,
 前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ,その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに,その前傾角度を不変にし,前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし,前記回転体は,非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されていることを特徴とする美容器。(※アンダーライン部が訂正箇所)
【本件審決の理由の要旨】
本件審決の理由は,本件訂正発明は,①後記アの引用例1記載の発明(以下「引用発明1」という。)を主引用発明とした場合,(ア)これと後記イの引用例2記載の発明(以下「引用発明2」という。),同ウの引用例3記載の発明並びに後記エ~コの引用例4~8及び周知例1,2 記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,(イ)これと引用発明2,引用例3~8記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,また,②引用発明2を主引用発明とした場合,(ア)これと引用発明1,引用例3記載の発明並びに引用例4~8及び周知例1,2記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず,(イ)これと引用発明1,引用例3~8記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,というものである。
ア 引用例1:米国特許第19696号明細書(甲1の1 )
イ 引用例2:仏国特許出願公開第2891137号明細書(甲12の1 )
ウ 引用例3:特開2009-142509号公報(甲4)
エ 引用例4:意匠登録第1424182号(甲7 )
オ 引用例5:「クロワッサン」35巻17号26~27頁(甲8 )
カ 引用例6:「Sweet」9巻11号通巻107号300頁(甲9 )
キ 引用例7:「Saita」17巻11号通巻278号57頁(甲10 )
ク 引用例8:「グラマラス」7巻9号108頁(甲11 )
ケ 周知例1:登録実用新案第3159255号公報(甲5)
コ 周知例2:特開2000-24065号公報(甲6)
⑵ 本件訂正発明と引用発明1との対比
ア 引用発明1
ハンドルの先端部に一対の球形ローラを,相互間隔をおいてそれぞれ心棒の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において,前記球形ローラの心棒の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ,その前傾角度をほぼ90度にするとともに,その前傾角度を不変にし,前記一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角としたマッサージ器。
イ 一致点
ハンドルの先端部に一対の回転体を,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において,前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ,その前傾角度を特定の数値とするとともに,その前傾角度を不変にし,前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした,器具。
ウ 相違点
(ア) 相違点1-1
本件訂正発明は, 「前傾角度を90~110度の範囲内とする」のに対し, 引用発明1 は, 「前傾角度をほぼ90度にする」点。
(イ) 相違点1-2
本件訂正発明は,「回転体は,非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し, 引用発明1 は,球形ローラを心棒に回転可能に支持したものであるが,「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
(※ 裁判所においては、「一対の球形ローラ」は、それぞれ貫通状態で支持されていると認定(相違点1-2’)」
(ウ)相違点1-3
本件訂正発明は,「美容器」であるのに対し,引用発明1 は,「マッサージ器」である点。
(エ)相違点1-4
本件訂正発明は,「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し, 引用発明1は,「一対の球形ローラの心棒の軸線を互いに対して直角とした」点。
⑶ 本件訂正発明と引用発明2との対比
ア 引用発明2
ハンドル1の先端部に一対の球2を,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持したマッサージ器において,一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とする,マッサージ器。
イ 一致点
ハンドルの先端部に一対の回転体を,相互間隔をおいてそれぞれ支持軸の軸線を中心に回転可能に支持した器具において,前記一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を特定の数値とした,器具。
ウ 相違点
(ア)相違点2-1
本件訂正発明は,「前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ,その前傾角度を90~110度の範囲内とするとともに,その前傾角度を不変に」するのに対し,引用発明2 は,ハンドル1と支持軸との関係において,支持軸が前傾しているものか明らかでない点。
(イ)相違点2-2
本件訂正発明は,「回転体は,非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」のに対し,引用発明2は,球2を支持軸に回転可能に支持したものであるが,「非貫通状態で」支持するものか明らかではない点。
(ウ)相違点2-3
本件訂正発明は「美容器」であるのに対し,引用発明2は「マッサージ器」である点。
(エ)相違点2-4
本件訂正発明は,一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」ているのに対し,引用発明2は,「一対の球2の支持軸の軸線の開き角度を70~100°とした」点。
【裁判所の判断】
1 取消事由1(引用発明1に基づく進歩性の判断の誤り)
 相違点についての判断
ア 本件訂正発明は,肌に接触する部分をボールで構成することにより,ボールが肌に対して局部接触し,ボールは肌の局部に集中して押圧力や摘み上げ力を作用することができるとともに,肌に対するボールの動きをスムーズにでき,移動方向の自由度も高い(【0009】,【0025】)ものである。また,本件訂正発明は,「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度」とすることにより,「所望とする肌20部位に適切な押圧力を作用させることができると同時に,肌20の摘み上げを強過ぎず,弱過ぎることなく心地よく行うことができる」(【0026】) ものである。さらに,本件訂正発明は,「前傾角度を90~110度の範囲内とする」ことにより,肘を上げたり,手首をあまり曲げたりすることなく美容器10の往復動作を行うことができ,しかも,ボール支持軸15の軸線yを肌20面に対して直角に近くなるように維持しながら操作を継続することができるため,肌20に対してボール17を有効に押圧してマッサージ作用を効率良く発現することができる(【0023】,【0024】) ものである。ここで,相違点1-2 ’に係る本件訂正発明の構成は,「回転体は,非貫通状態で前記支持軸に回転可能に支持されている」というものである。図3,4及び8から推察するに,本件訂正発明に係る美容器を,2つの回転体の支持軸が肌に対して直角に近くなるように押し当てると,回転体の肌に接触する部分には支持軸付近が含まれることがわかる。この場合,支持軸が貫通状態で回転体を支持していると,支持軸の部分が肌に接触することにより,回転体はスムーズな回転を得られないと考えられる。すなわち,非貫通状態の支持軸により回転可能に支持されていることが,回転体のスムーズな回転に寄与していることがうかがわれる。そうすると,本件訂正発明に係る美容器の使用状態において,相違点1-2’に係る構成は,支持軸が肌面に直接接触しないようにするための構成であるということができるところ,回転体のどの部分が肌面に接触するかに関係するという点では,相違点1-1に係る「前記回転体の支持軸の軸線をハンドルの把持部に対して前傾させ,その前傾角度を90~110度の範囲内とする」構成,及び相違点1-4に係る「一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度とし」た構成も同様である。そうである以上,相違点1-1,1-2’及び1-4に係る本件訂正発明の各構成は,それぞれ別個独立にとらえられるべきものではなく,相互に関連性を有するものとして理解・把握するのが相当であり,異なる文献にそれぞれの構成が開示されていることに基づいて,相違点1-1,1-2’及び1-4に係る構成のそれぞれを当業者が容易に想到し得たものとすることは相当でない。
イ 以上の点を踏まえて検討すると,まず,相違点1-1に関し,引用発明2は,一対の球の支持軸の軸線の開き角度を70~100度としているが,支持軸の軸線はハンドルの把持部に対して前傾しているとはいえず,かつ,支持軸は球を貫通している。また,引用例3記載の発明では「一対のローラ20の回転軸φ1,φ2のなす角を鈍角θ0」とすることが示されているが,具体的な角度は不明であり,かつ,支持軸は前傾していない(図2,本件明細書【0004】)。
次に,相違点1-4に関し,周知例1には,非貫通状態でローラ保持部に支持された一対のローラが開示されているが,2つのローラ保持部のなす角度は100~140°,把持部の先端部分の前傾角度は20~60°(本件訂正発明に対応させると,120~160°となる。)とされている。また,周知例2には,一対の球体を非貫通状態で回転軸体に支持することが開示されているが,2つの回転軸体は一直線上であり,かつ,柄部の前傾角度は略20~40度(本件訂正発明に対応させると,140~160度となる。)とされている(【0007】)。
さらに,引用例4~8は,いずれも同形状のマッサージ器を開示するものと認められるところ,これらにおいては,非貫通状態で一対の回転可能な球が本体の先端に設けられたマッサージ器が開示されていると認められるが,一対の球の支持軸が形成する角度及び本体の前傾角度については不明である。
このように,上記各文献においては,ハンドルの把持部に対する回転体支持軸の軸線の前傾角度を90~110度の範囲内とし,かつ,一対の回転体の支持軸の軸線の開き角度を65~80度の範囲とすることは開示されていないことから,相違点1-1及び1-4に係る各構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。そして,本件訂正発明は,更に相違点1-2 ’に係る「回転体は,非貫通状態で回転体の支持軸に支持され」た構成を備えることにより,スムーズな回転を得られるものである。
ウ 小括
したがって,本件訂正発明は,引用発明1を主引用発明とした場合,引用発明2,引用例3記載の発明並びに引用例4~8及び周知例1,2記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないし,引用発明2,引用例3~8記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
以上