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判例紹介:「眼科用清涼組成物」審決取消請求事件

18.12.29 判例

【判決日】平成30年9月6日
【事件番号】平成29年(行ケ)第10210号 審決取消請求事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/975/087975_hanrei.pdf
【キーワード】明確性
【判決要旨】
第1.結論
特許庁が無効2015-800023号事件について平成29年10月11日にした審決を取り消す。
第2.事案の概要
 特許無効審判の審決の取消訴訟である。争点は,明確性要件違反の有無である。

1 手続の経緯
(1)原告は,平成17年6月7日(平成16年6月8日優先権主張(日本国)),発明の名称を「眼科用清涼組成物」とする特許出願をし,平成25年11月8日,設定の登録(特許第5403850号)を受けた(この特許を「本件特許」という)。
*審査段階での拒絶理由は、新規性、進歩性無し。拒絶査定後、拒絶査定不服審判を経て登録。
(2) 被告は,平成27年2月5日,特許庁に対し,本件特許の全ての請求項について特許を無効にすることを求めて審判を請求し,同請求事件は,無効2015-800023号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成27年12月1日,審判請求は成り立たない旨の審決(以下「第一次審決」という。)をしたため,被告は,審決取消訴訟を提起した。知的財産高等裁判所は,平成29年1月18日,第一次審決を取り消す旨の判決(以下「第一次判決」という。)をし,第一次判決はその後確定した。
(4) 原告は,平成29年9月4日付けで本件特許について訂正を請求した(以下「本件訂正」という。)。
(5) 特許庁は,平成29年10月11日,本件訂正を認めた上で,請求項1~
6に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(以下「本件審決」とい
う。)をし,その謄本は同月19日に原告に送達された。
(6) 原告は,平成29年11月16日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を
提起した。

2.登録時の請求項1,明細書【0021】の記載
(下線部は、一次審決の取消訴訟および本件訴訟で争点になっている箇所)
【請求項1】
a)メントール、カンフル又はボルネオールから選択される化合物を、それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満、
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種、および
c)平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物。

【0021】(一部抜粋)
 本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり、平均分子量が0.5万~50万のものを用いる。より好ましくは・・・。かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ、例えば、生化学工業株式会社から販売されている、コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万、平均分子量約2万、平均分子量約4万等)、マルハ株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約0.7万等)等が利用できる。・・・

3.第一次判決(平29年(行ケ)第10005号)について 
争点は2つ。第1の争点は、本件特許請求の範囲又は本件明細書の「平均分子量」等の記載についての明確性要件。第2の争点は、新規性および進歩性欠如(第2の争点については、本件審決、本件判決では判断されていないため省略)。
第一次判決では、明確性要件等違反、新規性および進歩性欠如を判示。
特に、第1の争点について、裁判所では、下記のように判断している。
・本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」等のいずれを示すものであるかについては,本件明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。
・マルハ株式会社は,本件出願日当時,コンドロイチン硫酸ナトリウムの製造販売を独占する二社のうちの一社であって,コンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量を粘度平均分子量のみで測定し,ユーザー(当業者を含む。以下同じ。)から問い合わせがあった場合には,その数値(6千ないし1万程度のもの)をユーザーに提供していたのであり,マルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として,同社のコンドロイチン硫酸ナトリウムを利用する当業者に公然と知られていた数値は,このような粘度平均分子量の数値であったと認められる。
・当業者は,本件出願日当時,本件明細書に記載されたその他高分子化合物であるヒドロキシエチルセルロース(【0016】),メチルセルロース(【0
017】),ポリビニルピロリドン(【0018】)及びポリビニルアルコール(【0020】)については重量平均分子量で記載されているものと理解したとしても,少なくとも,コンドロイチン硫酸ナトリウムに限っては,直ちに重量平均分子量で記載されているものと理解することはできず,これが粘度平均分子量あるいは重量平均分子量のいずれを意味するものか特定することができないものと認められる。
・本件特許請求の範囲にいう「平均分子量が0.5万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,「重量平均分子量」,「粘度平均分子量」のいずれを示すものであるかが明らかでない以上,上記記載は,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であり,特許法36条6項2号に違反すると認めるのが相当である。

4.訂正後の請求項1、明細書【0021】の記載
(下線部は訂正箇所)
【請求項1】
a)メントール,カンフル又はボルネオールから選択される化合物を,それらの総量として0.01w/v%以上0.1w/v%未満,
b)0.01~10w/v%の塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,リン酸水素二ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸二水素カリウムから選ばれる少なくとも1種,および
c)平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩を0.001~10w/v%含有することを特徴とするソフトコンタクトレンズ装用時に清涼感を付与するための眼科用清涼組成物(ただし,局所麻酔剤を含有するものを除く)。

【0021】(一部抜粋)
本発明に用いるコンドロイチン硫酸又はその塩は公知の高分子化合物であり,平均分子量が0.5万~50万のものを用いる。より好ましくは・・・かかるコンドロイチン硫酸又はその塩は市販のものを利用することができ,例えば,生化学工業株式会社から販売されている,コンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)が利用できる。・・・

5.本件審決の理由の要旨
本件訂正を認めた上で,当業者の技術常識から合理的に解釈しても,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」(【請求項1】【請求項6】)における「平均分子量」がいかなる平均分子量を意味するのかが不明であるから,特許請求の範囲の記載は特許法36条6項2号に規定する要件(以下「明確性要件」という。)を満たさず,本件訂正発明1~6についての特許は無効にすべきであるというものである。

6.本件訴訟における裁判所の判断
 (3) コンドロイチン硫酸又はその塩について
ア マルハ株式会社と生化学工業株式会社の2社は,本件出願日当時,コンドロイチン硫酸又はその塩の製造販売を市場において独占していた。(甲11,12)
イ 生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて
(ア) 生化学工業株式会社は,平成16年より以前から,ユーザーからコンドロイチン硫酸ナトリウム製品の平均分子量について問合せがあった場合には,通常,重量平均分子量の数値を提供し,平均分子量約1万,約2万及び約4万とする製品についても重量平均分子量の数値を提供していた(甲100)。これによれば,本件出願日当時,生化学工業株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として同社が提供していたのは重量平均分子量の数値であり,当業者に公然に知られた数値も,重量平均分子量の数値であったと認められる・・・
ウ マルハ株式会社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムについて
(イ) マルハ株式会社は,過去において,ユーザーからコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について問合せがあった場合には,通常粘度平均分子量の数値を提供していたものであり(甲43),ユーザーには当業者が含まれると推認されるから,本件出願日当時,マルハ株式会社のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として,当業者に公然に知られた数値は,粘度平均分子量の数値であったものと認められる。
(4) 以上を踏まえて本件訂正後の特許請求の範囲の記載の明確性について判断する。
ア 本件訂正後の特許請求の範囲にいう「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が,本件出願日当時,重量平均分子量,粘度平均分子量,数平均分子量等のいずれを示すものであるかについては,本件訂正明細書において,これを明らかにする記載は存在しない。もっとも,このような場合であっても,本件訂正明細書におけるコンドロイチン硫酸又はその塩及びその他の高分子化合物に関する記載を合理的に解釈し,当業者の技術常識も参酌して,その平均分子量が何であるかを合理的に推認することができるときには,そのように解釈すべきである。
イ 上記1(2)カのとおり,本件訂正明細書・・・の「生化学工業株式会社から販売されているコンドロイチン硫酸ナトリウム(平均分子量約1万,平均分子量約2万,平均分子量約4万等)」については,本件出願日当時,生化学工業株式会社は,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量について重量平均分子量の数値を提供しており,同社製のコンドロイチン硫酸ナトリウムの平均分子量として当業者に公然に知られた数値は重量平均分子量の数値であったこと(上記(3)イ(ア))からすれば,その「平均分子量」は重量平均分子量であると合理的に理解することができ,そうだとすると,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量も重量平均分子量を意味するものと推認することができる。加えて,本件訂正明細書の上記段落に先立つ段落に記載された他の高分子化合物の平均分子量は重量平均分子量であると合理的に理解できること(上記(2)イ),高分子化合物の平均分子量につき一般に重量平均分子量によって明記されていたというのが本件出願日当時の技術常識であること(上記(2)ウ)も,本件訂正後の特許請求の範囲の「平均分子量が2万~4万のコンドロイチン硫酸或いはその塩」にいう平均分子量が重量平均分子量であるという上記の結論を裏付けるに足りる十分な事情であるということができる。
よって,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は明確性要件を充足するものと認めるのが相当である。

以上