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判例紹介:「噴出ノズル管の製造方法」審決取消請求事件

19.05.15 判例

【判決日】平成31年3月6日
【事件番号】平成30年(行ケ)第10099号 審決取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/507/088507_hanrei.pdf)
【キーワード】共同出願違反、判決の拘束力
1.事案の概要
(1)原告は,平成23年6月8日,名称を「噴出ノズル管の製造方法並びにその方法により製造される噴出ノズル管」とする発明についての特許出願をし,平成24年3月30日,その設定登録を受けた(特許第4958194号。)
(2)被告は,平成26年11月14日付けで,本件特許の特許請求の範囲請求項1ないし3の発明に係る特許について,本件各発明は被告が発明したものであるにもかかわらず,発明者でない原告がその名義で出願したものであるから,平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号に該当すると主張して,無効審判請求をした。
 特許庁は,平成27年9月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(一次審決)をした。
(3)被告は,平成27年10月29日,知的財産高等裁判所に,一次審決の取消しを求める審決取消訴訟を提起した。
 同裁判所は,平成29年1月25日,「特許庁が無効2014-800187号事件について平成27年9月25日にした審決のうち,特許第4958194号の請求項1及び3に係る部分を取り消す。原告(判決注:本件訴訟の被告)のその余の請求を棄却する。」との判決(一次判決)をした。その理由の要旨は,本件各発明のうち,本件発明2については,その発明者が原告であると認めることができるが,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできない,というものである。
(4)原告は,平成29年2月9日,一次判決を不服として,上告受理申立てをしたが,最高裁判所は,同年11月16日,「本件を上告審として受理しない。」との決定をし,一次判決は確定した。
(5)特許庁は,上記無効審判の審理を再開した上,平成30年6月11日,「特許第4958194号の請求項1及び3に係る発明についての特許を無効とする。特許第4958194号の請求項2に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をした。
(6)原告は,平成30年7月21日,本件訴訟を提起した。
(7)裁判所は、原告の請求を棄却した。
2.本件発明
【請求項1】
 熱可塑性を有する合成樹脂素材により製造されたノズル管本体から弁機能を備える噴出ノズル管を製造するための方法であって,
 ノズル管本体の中空部内に所定径幅を有する針材を差込み配置する工程と,
 ノズル管本体の所定位置を所定長さだけ加熱して軟化させる工程と,
 加熱により軟化された箇所をノズル管本体の外径に変化がないように押さえつつノズル管本体の長さ方向における両端側から押し込む工程と,
 加熱された箇所を冷却して固化する工程と,
 固化後に針材を引き抜く工程と,
 から成ることを特徴とする噴出ノズル管の製造方法。
【請求項2】
 熱可塑性を有する合成樹脂素材により製造されたノズル管本体から弁機能を備える噴出ノズル管を製造するための方法であって,
 ノズル管本体の中空部内に所定径幅を有する針材を差込み配置する工程と,
 ノズル管本体の外周における所定位置に所定長さの熱収縮チューブを嵌合する工程と,
 熱収縮チューブが嵌合された箇所を加熱してノズル管本体を軟化させるとともに該熱収縮チューブを収縮させる工程と,
 加熱された箇所を冷却して固化する工程と,
 固化後に針材を引き抜く工程と,
 から成ることを特徴とする噴出ノズル管の製造方法。
【請求項3】
 前記請求項1または請求項2に記載の方法により製造される噴出ノズル管であって,
 ノズル管本体の中空部内に,該ノズル管本体の内径よりも小径の貫通孔を有する弁が備えられていることを特徴とする噴出ノズル管。
3.一次判決(平成27年(行ケ)第10230号)における裁判所の判断
(1)本件のように,冒認出願(平成23年法律第63号による改正前の特許法123条1項6号)を理由として請求された特許無効審判において,「特許出願がその特許に係る発明の発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者によりされたこと」についての主張立証責任は,特許権者が負担するものと解するのが相当である。
 もっとも,そのような解釈を採ることが,すべての事案において,特許権者が発明の経緯等を個別的,具体的,かつ詳細に主張立証しなければならないことを意味するものではない。むしろ,先に出願したという事実は,出願人が発明者又は発明者から特許を受ける権利を承継した者であるとの事実を推認させる上でそれなりに意味のある事実であることをも考え合わせると,特許権者の行うべき主張立証の内容,程度は,冒認出願を疑わせる具体的な事情の内容及び無効審判請求人の主張立証活動の内容,程度がどのようなものかによって左右されるものというべきである。すなわち,仮に無効審判請求人が冒認を疑わせる具体的な事情を何ら指摘することなく,かつ,その裏付けとなる証拠を提出していないような場合は,特許権者が行う主張立証の程度は比較的簡易なもので足りるのに対し,無効審判請求人が冒認を裏付ける事情を具体的に指摘し,その裏付けとなる証拠を提出するような場合は,特許権者において,これを凌ぐ主張立証をしない限り,主張立証責任が尽くされたと判断されることはないものと考えられる。
 以上を踏まえ,本件における取消事由(発明者の認定の誤り)の有無を判断するに当たっては,特許権者である被告において,自らが本件各発明の発明者であることの主張立証責任を負うものであることを前提としつつ,まずは,冒認を主張する原告が,どの程度それを疑わせる事情(すなわち,被告ではなく,原告が本件各発明の発明者であることを示す事情)を具体的に主張し,かつ,これを裏付ける証拠を提出しているかを検討し,次いで,被告が原告の主張立証を凌ぎ,被告が発明者であることを認定し得るだけの主張立証をしているか否かを検討することとする。
(2)以上の証拠調べによれば、原告の上記主張のうち,原告が,平成22年11月3日ころまでに,本件発明1の方法の実施に用いられる本件機器を完成させたこと,ひいては,本件発明1を完成させたことについては,客観性のある証拠等によって裏付けられているということができる。
 しかしながら,前述したとおり,本件機器は本件発明2の方法に用いられるものとはいえないから,原告が本件機器を完成させたからといって,本件発明2の方法を着想し,完成させたことが認められるものではなく,他にこれをうかがわせる証拠もない。したがって,原告の上記②の主張のうち,本件発明2に係る部分は,その裏付けを欠くものというほかない(そもそも,原告は,原告が本件発明2の方法を着想し,具体化したことを示す具体的な事情を主張していない。)。
4.再度の審理における審決の理由
 本件の再度の審理には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,取消判決の拘束力が及ぶ。原告は,一次判決の認定判断は誤りであると主張し,これを裏付けるための新たな立証として証拠を提出するが,当該主張立証は,一次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において既に行われたもの,あるいはこれを行うことができたはずのもの,又は従前と同様の主張を繰り返すものであって,上記拘束力により採用することができない。
 以上のことから,当審は,本件判決(判決注:一次判決)に従い,本件各発明のうち,本件発明2については,その発明者が原告であると認めることができるが,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないものと判断する。
5.原告の主張
(1)最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決(昭和63年(行ツ)第10号,民集46巻4号245頁。以下「平成4年最高裁判決」ということがある。)が,「拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる」と判示しているとおり,取消判決の拘束力が生じるのは,判決理由中の判断のうち,判決主文を導出するのに不可欠な法律上・事実上の判断についてである。そして,平成4年最高裁判決は,要旨,「同一の引用例に基づく主張について拘束力が及ぶ」と判示しているところ,これは換言すると「他の引用例(証拠)に基づく主張まで拘束されるものではない」,すなわち新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力が及ぶものではないと説示していることにほかならない。
 これを本件についてみると,一次判決の拘束力が及ぶのは,一次審決のうち,本件発明1及び3に係る部分を取り消すとの判決主文が導き出される根拠とされた事実(証拠)の認定及び当該事実(証拠)に基づいてされた法律判断のみであって,新たな証拠に基づく事実認定や法律判断にまで拘束力は及ばない。
 再開後の無効審判手続及び本件訴訟において新たに提出した証拠には,一次判決後に発見されたものが含まれており,本件審決が説示した「主張立証について,一次審決に係る審判手続及びその審決取消訴訟において既に行われたもの,あるいはこれを行うことができたはずのもの」に該当するものではないから,この点からも一次判決の拘束力は及ばない。
6.裁判所の判断
(1)特許無効審判事件についての審決の取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は特許法181条2項の規定に従い当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,当該取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の当該認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が,取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは当該主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきではなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができない。このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決の主文のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決の違法(取消)事由たり得ないと解される(平成4年最高裁判決参照)。
 これを本件についてみると,一次判決は,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないとして,一次審決のうち,本件特許の請求項1及び3に係る部分を取り消した。そして,一次判決の確定後にされた本件審決は,一次判決の拘束力に従って,本件発明1及び3については,その発明者が原告であると認めることはできないものと判断した。
 したがって,本件発明1及び3の発明者についての本件審決の判断は,一次審決の拘束力に従ってされた適法なものであるから,関係当事者である原告は,当該判断に誤りがあるとして本件審決の取消しを求めることができないというべきである。
(2)原告の主張について
 平成4年最高裁判決によれば,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対して拘束力が及ぶのであるから,当事者としては,この事実認定に反する主張をすることは許されないのであり,したがって,新たな証拠を提出して,上記事実認定とは異なる事実を立証し,それに基づく主張をしようとすることも,取消判決の拘束力に反するものであって許されないといわなければならない。このことは,上記判決自身が,「再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることが許されない。」と明言していることからも明らかである。
 そして,本件訴訟における原告の主張は,一次判決において審理の対象となっていた冒認出願,すなわち,本件発明1及び3は,被告が発明したものであるにもかかわらず,原告がその名義で出願した,という同一の無効理由に関し,本件発明1及び3の発明者が原告であると認めることはできない,との一次判決が認定した事実そのものについて,一次判決に係る訴訟における原告の主張を補強し,又は,原告に不利な認定を誤りであるとして,確定した一次判決の当該認定判断を覆そうとするものにすぎないから,そのような主張が許されないことは明らかである。
(3)もっとも,原告が指摘するとおり,取消判決に民事訴訟法338条所定の再審事由がある場合には,当該取消判決は再審の訴えによって取り消されるべきものであるから,これに拘束力を認めるのは相当でないと解する余地がある。
 原告は,一次判決の認定判断の基礎となった被告及びAの陳述(一次審決に係る審判手続において,宣誓の上で実施された被告の当事者尋問における陳述を含む。)に,民事訴訟法338条1項6号及び7号の再審事由があると主張するものと解されるが,同条1項ただし書の場合に該当しないこと,及び同条2項の要件を満たすことについては何ら主張立証がないから,原告の再審事由に関する主張は,既にこの点において理由がないものといわざるを得ない。また,念のため内容について検討してみても,やはり理由がないものといわざるを得ない。
以上