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判例紹介:「プレハブ式階段」実用新案権侵害差止等請求事件

19.05.15 判例

【判決日】平成29年12月25日判決言渡(東京地裁第29民事部)
【事件番号】平成28年(ワ)第13003号 実用新案権侵害差止等請求事件
【キーワード】進歩性欠如、差止請求、不当利得
【主文】
1 被告は,別紙1被告製品目録記載のプレハブ式階段を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告は,別紙1被告製品目録記載のプレハブ式階段を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,165万9952円及びこれに対する平成29年4月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用はこれを4分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。
6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
【事案の概要】
 本件は,考案の名称を「プレハブ式階段」とする実用新案登録第3159269号(以下「本件実用新案登録」という。)に係る実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙1被告製品目録記載のプレハブ式階段(以下「被告製品」という。)は,本件実用新案登録に係る願書に添付した実用新案登録請求の範囲(平成26年7月7日付け訂正書による訂正後のもの。)の請求項1記載の考案(以下「本件考案」という。)の技術的範囲に属するから,被告が,業として,被告製品を製造し,譲渡し,又は譲渡の申出をすること(以下,これらの行為を併せて「譲渡等」という。)は,本件実用新案権の侵害を構成すると主張して,①被告製品の譲渡等の差止、及び②被告製品の廃棄を求めると共に、③不当利得金(被告製品の実施日(※平成25年1月1日)から本件考案に係る実用新案技術評価書を提示して警告した日前(※平成27年7月31日)までの期間)の支払い、④警告後の被告による被告製品の譲渡に対する損害賠償金の支払い、を求めた事案である。
【本件考案】
[請求項1](訂正後)※下線部は訂正箇所を示す
A:傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の長尺部材と,
B:水平に配置された踏み板部と,鉛直に配置され上辺部が前記踏み板部の側辺部に一体的に連続又は接続された蹴上げ部とを有すると共に,前記傾斜した設置地面上に配置された長尺部材上に階段状に並べて配置されたステップ部材と,
C:一枚の板状部材が折り曲げされることにより形成され,前記長尺部材に固定された固定部材と,
D:下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ,上端部が前記設置地面から突き出して前記固定部材に固定された,大きな剛性を有するアンカー杭と
 を備え,
E:前記固定部材は,平坦な第1の平板部と,前記第1の平板部から前記板状部材の長さ方向に連続して弧を描くように折り曲げられた円弧部と,前記円弧部の前記第1の平板部と反対側の端部が折り曲げられて,前記第1の平板部と間隔を空けて互いに対向するように形成された平坦な第2の平板部とを有し,
F:前記第1の平板部及び第2の平板部には,互いに対応する位置に配置された,第1のボルト孔及び第2のボルト孔がそれぞれ形成され,
G:前記円弧部の内周面の内径寸法は,前記アンカー杭の上端部が挿通することができる大きさに形成されると共に,互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなるにつれて,前記内径寸法が小さくなるように形成され,
H:前記円弧部の内周面の内側に,前記アンカー杭の上端部が挿し込まれ,前記第1の平板部の,前記第2の平板部と対向する側とは反対側の面が前記長尺部材に接触して配置され,
I:前記第1の平板部の前記第1のボルト孔と,前記第2の平板部の前記第2のボルト孔と,前記長尺部材の前記第1のボルト孔及び前記第2のボルト孔に対応する位置に形成されたボルト孔に,頭付ボルトのネジ部が挿通し,その挿通した前記ネジ部にナットがネジ締結することにより,互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなり,前記アンカー杭の上端部が前記円弧部の内周面に締め付けられるように,前記固定部材が前記長尺部材に固定された
J:ことを特徴とするプレハブ式階段。
※請求項2~4は省略。
【本件実用新案登録の経緯】
 出願日 平成22年2月23日
 登録日 平成22年4月14日
 公報発行日 平成22年5月13日
 訂正書 平成26年7月7日
 実用新案技術評価の通知 平成27年5月22日
【被告の行為】
 被告は、業として、被告製品(その具体的構成は,別紙1被告製品目録の「2」以下に示されるとおりである。)を譲渡等した。被告製品は,本件考案の構成要件を全て充足する(被告も,この点につき争っていない。)。
【警告】
 原告は,平成27年7月23日付け通告書により,被告に対し,本件考案に係る実用新案技術評価書を提示して警告をし(甲7,8),同通告書は,遅くとも同月末日までに被告に到達した(争いがない。)
【争点】
争点1:無効にされるべきものと認められるか※特許法104条の3を準用
(1-1:乙2号証を主引例とする進歩性欠如、1-2:公然実施による新規性欠如)
争点2:被告製品の譲渡等の差止及び廃棄の必要性があるか
争点3:不当利得の額及び損害の額
【裁判所の判断】
・・・
2 争点1-1(無効理由1〔乙第2号証を主引例とする進歩性欠如〕は認められるか)について
⑵ 引用考案
 上記⑴に認定した乙2公報の記載によれば,乙2公報には,次の考案(以下「引用考案」という。)が記載されているものと認められる。
「傾斜した設置地面上に互いに略平行に配置された複数の部材により構成された枠体6と,水平に配置された板状部と鉛直に配置された板状部とを有し,前記傾斜した設置地面上に配置された枠体6上に階段状に並べて配置されたステップ1と,アンカ杭固定釘10と,下端部が前記設置地面の土中に埋め込まれ,上端部が前記設置地面から突き出して前記枠体6に固定されたアンカ杭9とを備え,前記アンカ杭固定釘10により前記アンカ杭9が枠体6の側面に固定されたことを特徴とするプレハブ式階段。」
・・・
イ 相違点
 他方で,本件考案と引用考案とは,次の点において相違する。
(ア) 本件考案の「アンカー杭」が「大きな剛性を有する」(構成要件D)のに対し,引用考案の「アンカ杭9」の剛性は特定されていない点(以下「相違点1」という。)
(イ) 本件考案のプレハブ式階段は,「平坦な第1の平板部と,前記第1の平板部から前記板状部材の長さ方向に連続して弧を描くように折り曲げられた円弧部と,前記円弧部の前記第1の平板部と反対側の端部が折り曲げられて,前記第1の平板部と間隔を空けて互いに対向するように形成された平坦な第2の平板部とを有し, 前記第1の平板部及び第2の平板部には,互いに対応する位置に配置された,第1のボルト孔及び第2のボルト孔がそれぞれ形成され,前記円弧部の内周面の内径寸法は,前記アンカー杭の上端部が挿通することができる大きさに形成されると共に,互いに対向する前記第1の平板部と前記第2の平板部の間隔が小さくなるにつれて,前記内径寸法が小さくなるように形成され」(構成要件EないしG),「一枚の板状部材が折り曲げされることにより形成され,前記長尺部材に固定された固定部材」(構成要件C)を備えるのに対し,引用考案のプレハブ式階段はそのような固定部材を備えない点(以下「相違点2」という。)
(ウ) 本件考案の「アンカー杭」は,その上端部が固定部材の円弧部の内周面の内側に挿し込まれ,それぞれボルト孔を有する固定部材と長尺部材とがボルト・ナットにてネジ締結されることにより,上記内周面に締め付けられるように固定されるのに対し,引用考案の「アンカ杭9」は,「アンカ杭固定釘10」により「枠体6」の側面に固定される点(以下「相違点3」という。)
・・・
⑷ 相違点に係る容易想到性の検討
ア 相違点2及び同3について
(ア) 被告は,乙2公報に記載された考案(引用考案)について,鋼棒の固定力が低下することを課題とするものであるところ,固定力を向上させ,更に工程数を削減するため,引用考案中のアンカー杭として周知技術(乙7,8)に係るパイプ杭を想定し,パイプを強固に固定する部材として分野を問わず採用されていた周知技術(乙3ないし5)に係るb字型部材を採用する動機付けがあると主張する。
 しかしながら,まず,アンカー杭としてパイプ杭を用い,その下端部を地中に埋め込み,上端部をクランプを介して設置物を地面に固定することが本件出願日当時の周知技術であったとしても,引用考案における「アンカ杭9」をあえて「パイプ杭」に置き換える動機付けとなるべき積極的な事情は見当たらない。
 また,前記⑴のとおり,乙2公報には,「上記従来例において,ステップ1を鋼棒にて直に設置面に固定するようにしていたので,次のような改良すべき課題がある。すなわち,…設置面が自然の傾斜地である場合には,通常設置面が凹凸面になっている。このような凹凸面に各ステップをステップ連結釘で連結して設置した場合に,各ステップの着地状態が一定ではなく,時には地面から浮き上がったステップもあり,かつ,凹凸面にそって捻れたりする。その結果,鋼棒の固定力が十分でない部分があり,また,捻れた状態のステップを繰り返し踏むことにより,鋼棒の固定力が低下するという課題がある。」との記載があり(段落【0003】),従来のプレハブ式階段において,設置面に凹凸があるために,ステップと設置面とを直接固定する鋼棒の固定力が低下する課題が存した旨の記載はあるが,引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することについては,乙2公報には記載も示唆もない。また,かかる課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせない。かえって,引用考案によれば,「アンカ杭固定釘10により,アンカ杭9を枠体6の側面に固定するようにすれば,設置表面GLの凹凸面に応じて,任意の位置にアンカ杭9を打ち込むことができ,枠体6を設置面4に確実に固定することができる。」(下線を付した。)とされ(段落【0019】),アンカ杭固定釘10による固定方法であれば設置面の凹凸に応じて任意の位置にアンカ杭9を打つことができるのに対して,本件考案では「前記長尺部材の前記第1のボルト孔と前記第2のボルト孔に対応する位置に形成されたボルト孔」(下線を付した。)と規定されており(構成要件I),長尺部材にあらかじめボルト孔を形成しておくのであれば,出荷前の工程数が増加する上に必ずしも任意の位置にアンカ杭を打つことができなくなるし,あらかじめボルト孔を形成しないとしても,施工時にボルト孔を形成する工程が増加すると共に,固定部材とボルト・ナットを要するために引用考案より部材数が増加することになるから,アンカ杭固定釘に代えて,「b字型部材」を採用する動機付けを阻害する要因があるというべきである。
(イ) 次に,被告は,本件出願日当時,設置物を地面に固定するために,一枚の板状部材からなる固定部材の円弧部にアンカー杭を挿入し,ボルトとナットで締め付ける構成が公知であり(乙14),この固定部材の形状を「b字型」とすることは,設置物や設置状況に応じて当業者が適宜設計できる事項にすぎないとして,乙第14号証に開示された板状部材を適宜b字型部材に変更して引用考案に適用することにより,相違点2及び同3に係る本件考案の構成に容易に想到できるとも主張する。
 しかし,引用考案において「アンカ杭固定釘10」により「アンカ杭9」を「枠体6」に固定した場合にもなお「アンカ杭9」の固定力が低下するとの課題が存することにつき乙2公報には記載も示唆もなく,また,同課題が自明であったと認めることもできないことは,既に述べたとおりであるから,乙第14号証に開示された構成を引用考案に適用する動機付けは認め難いというほかない。
イ 相違点1について
 被告は,引用考案における「アンカー杭9」を相違点1に係る本件考案の構成(「大きな剛性を有する」)とすることが極めて容易であるとみるべき事情を主張しておらず,かえって,引用考案における「アンカー杭9」が「アンカ杭固定釘10により…枠体6の側面に固定」できるものでなければならないことからすれば,引用考案における「アンカー杭9」を「大きな剛性を有する」ようにすることは,むしろ容易ではなかったことがうかがわれるところである。
⑸ 小括
 以上によれば,本件考案は,当業者が本件出願日当時引用考案に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとは認められないから,被告の主張する無効理由1は成り立たない。
・・・
4 争点2(被告製品の譲渡等の差止め及び廃棄の必要性があるか)について
 前記前提事実等(第2,2⑷)のとおり,被告製品は,本件考案の構成要件を全て充足するから,その技術的範囲に含まれ,また,上記2及び3のとおり本件考案についての実用新案登録につき被告の主張する無効理由は成り立たないから,被告が業として被告製品を譲渡等することは,本件実用新案権を侵害する行為である。
 したがって,被告による被告製品の譲渡等を差し止める必要があるというべきであるし,被告が保有する被告製品を廃棄させる必要がある。
 この点について,被告は,被告が平成28年1月には被告製品の製造販売を終了させ,被告製品で用いられていたボルト・ナットをコーチボルトに変更した新製品を譲渡等していると主張するが,被告の主張によっても,新製品は,被告製品におけるボルト・ナットをコーチボルトに変更したにとどまるものであり,被告においてコーチボルトをボルト・ナットに再度変更して譲渡等することは容易であるから,なお被告が被告製品を譲渡等するおそれが認められるというべきである。
※コーチボルトとは、六角ボルトの先がとがった、ねじになった接合金具
5 争点3(不当利得の額及び損害の額)について
⑴ 不当利得について
ア 不当利得金の算定の対象となる期間について
 原告は,被告が,本件実用新案登録がされた後の日である平成25年1月1日から平成27年7月31日までの間に,実施料を支払うことなく被告製品を譲渡等して,法律上の原因なく実施料相当額の利得を得ており,これと同額の損失を原告に及ぼした旨主張する。これに対し,被告は,不当利得金の算定の基礎とされるべき被告製品の譲渡等は,本件考案に係る実用新案技術評価書が発送された平成27年5月21日以降にされたものに限られるべきとか,原告が提出した訂正書が受理された平成26年7月7日以降にされたものに限られるべき旨主張している。
 実用新案法14条の2第11項は,同条1項に規定する実用新案権者による訂正があったときは,その訂正後における明細書,実用新案登録請求の範囲又は図面により実用新案登録出願及び実用新案権の設定の登録がされたものとみなす旨規定しているから,原告が平成26年7月7日付け訂正書によってした実用新案登録請求の範囲の訂正の効力は,本件実用新案登録の日である平成22年4月14日に遡及することとなる。
 したがって,被告製品が上記訂正後の実用新案登録請求の範囲の構成要件を全て充足し,本件考案の技術的範囲に含まれる以上,被告は,原告に実施料を支払うことなく,平成22年4月14日以降に被告製品を譲渡等したことにより,実施料相当額の利得を得ており,原告は,これと同額の損失を受けたものというべきである。
 この点について,被告は,実用新案技術評価書を提示して警告した後でなくては実用新案権を行使できないことから,進歩性を認める旨の実用新案技術評価書が発送された日や,当該進歩性を認める旨の実用新案技術評価書の基礎とされた訂正書が受理された日が,不当利得金の算定の対象となる期間の始期とされるべき旨主張するが,実用新案技術評価書の提示は,権利を行使するための手続的要件にすぎず,実用新案技術評価書を請求する以前には実用新案権が実体的に存在しないということにはならないから,被告の主張は採用することができない。
【ひとこと】
 本件は、周知技術であるからといっても動機づけがなければ置換容易とはいえない、また、乙号証の課題や効果からアンカ杭固定釘に代えてb字型部材を採用する動機づけを阻害する要因がある、と判断しました。実務上、利用できる場面があるかもしれません。なお、平成27年9月に改訂された審査基準では、これまでと異なり、阻害要因について4つの類型に分けて説明されています。これは、今回のような判決がいくつもあったためだと思われます。ちなみに、改訂後の審査基準には判例が引用されていません。判例は審査基準ハンドブックの附属書Dにまとめられています。
 本件は、実用新案登録出願が登録されたあとに請求項1を訂正し、その結果、被告製品が請求項1に含まれるようになった事案です。技術評価書を提示して警告した後は、不法行為に基づく損害賠償請求が認められますが、登録後警告前の侵害行為について不当利得返還請求が認められた点は興味深いところです。実用新案法では過失の推定規定がないため、登録後警告前の行為については損害賠償請求が難しいと思われますが、不当利得返還請求は過失が要件ではないため認められたと思われます。
 また、仮に本件が特許出願だった場合、審査請求後、補正により今回の訂正後の請求項1のように変更しなければ登録にならなかったでしょう。そうすると、権利発生は下図のように本件と比べて時期的に遅くなり、被告から取得できる金額も少なくなったと思われます。こうしたことを考えると、実用新案登録出願も有効に利用できる面があると思われます。
以上