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判例紹介:「脂質含有組成物およびその使用方法」審決取消請求事件

20.05.28 判例

平成30年(行ケ) 第10117号 審決取消請求事件
【キーワード】
 進明確性、サポート要件
【結論】
 特許庁が不服2016-5871号事件についてした審決を取り消す。
【事件の概要】
 原告は,発明の名称を「脂質含有組成物およびその使用方法」とする特許出願(特願2014-99072号)について拒絶査定不服審判を請求したところ、 特許庁が「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたため、審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
【本件発明の要旨】
【請求項1】(※下線は、補正箇所)
A 対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選択するための指標としての使用であって,前記対象の一つ以上の要素は,以下:
B 前記対象の年齢,前記対象の性別,前記対象の食餌,前記対象の体重,前記対象の身体活動レベル,前記対象の脂質忍容性レベル,前記対象の医学的状態,前記対象の家族の病歴,および前記対象の生活圏の周囲の温度範囲から選択され,
C ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含む脂肪酸を含み,
D ここでω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比,およびそれらの量が,前記一つ以上の要素に基づいており;
E ここでω-6対ω-3の比が,4:1以上,ここでω-6の前記用量が40グラム以下であり;
F または前記対象の食餌および/または配合物における抗酸化物質,植物化学物質,およびシーフードの量に基づいて1:1~50:1;
G またはここでω-6の増加が緩やかおよび/またはω-3の中止が緩やかであり,かつω-6の用量が,40グラム以下であり;
H またはここで前記脂肪酸の含有量は,下記表6(省略): と適合する, 
I 前記使用。
【取消事由】
  (1) 手続違反(取消事由1)
 (2) 明確性要件の判断の誤り(取消事由2)
 (3) サポート要件の判断の誤り(取消事由3)
【裁判所の判断】
1 取消事油1(手続違反)について
 省略
2 取消事由2(明確性要件の判断の誤り)について
(1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2) 「対象の一つ以上の要素の,前記対象への投与のための脂質含有配合物を選択するための指標としての使用」との記載(特定事項A)の明確性
(ア) 被告は,本願発明は「年齢」や「性別」のような属性を,ありふれた油脂を選択するための指標として使用する方法をいうところ,「指標として」という記載は抽象的であり,いかなる行為までが「指標」として使用する行為に含まれ得るのか明確ではないから,本願発明の外延は明確ではない,要素を何らかの形で脂質含有配合物を選択するための指標として用いたか否かについては,明確に判別することはできない旨主張する。
 しかし,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,年齢,性別等の対象の要素をメルクマールにして,その脂質含有配合物の構成を決定すれば,要素を「指標として」使用したといえる。また,これにより決定される脂質含有配合物の構成がありふれたものであったとしても,ありふれていることを理由に発明の外延が不明確であると評価されるものではない。そうすると,「指標として」という記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
 また,対象方法が本願発明の特許発明の技術的範囲に属するか否かは,本願発明の技術的範囲を画定し,対象方法を認定した上で,これらを比較検討して判断するものである。 そして,脂質含有配合物を選択するための指標として本願発明の要素をメルクマールとして用いたか否かは,対象方法の認定に係る問題であって,本願発明の技術的範囲の画定の問題,すなわち,明確性要件とは無関係である。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。
 (イ) 被告は,特定事項EないしIは,特定事項Dにおける「ω-6脂肪酸対ω-3脂肪酸の比」及び「それらの量」が「一つ以上の要素」に,どのように基づいているのかを特定しようとする記載と解すべきである旨主張する。
 しかし,特定事項Dと特定事項EないしHは,いずれも特定事項Cによって特定された本願発明の方法によって選択される対象物の構成について,更に,それぞれ異なる観点から特定するものである。特定事項E及びGには「一つ以上の要素」に関する記載が全くないのであるから,これらと選択関係にある特定事項EないしHとの関係から,特定事項Dの技術的意義を解すべきとはいえない。
 したがって,被告の上記主張は採用できない。
 (ウ) 被告は,本願明細書は「要素」の使用方法を明らかにするものではなく,それが技術常識でもない旨主張する。
 被告の上記主張は,本願発明は,対象に投与する脂質含有配合物を選択するために,どのように「要素」を使用するかについて特定した方法であるという解釈を前提とするものである。
 しかし,特定事項F及びHに係る特許請求の範囲の記載においては,「要素」である食餌及び生活圏周囲の温度範囲を,どのように使用するかについて特定されているものの,これらの特定事項と選択関係にある特定事項E及びGには,「要素」の使用方法に関する記載はない。特定事項F及びHは,本願発明の方法によって選択される対象物である脂質含有組成物の構成を特定するものにすぎないと解すべきである。そして,その余の本願発明に係る特許請求の範囲の記載には,「要素」の使用方法に関する記載はない。
 したがって,被告の上記主張は,特許請求の範囲の記載を離れた本願発明の解釈を前提とするものであるから,採用できない。なお,本願発明の課題を解決するためには,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」をどのように使用するかについてまで特定しなければならないにもかかわらず,特許請求の範囲に記載された発明が,脂質含有配合物の選択に当たり,特定の「要素」を使用する方法について特定するにとどまるというのであれば,それは,サポート要件の問題であって,明確性要件の問題ではない。明確性要件は,出願人が当該出願によって得ようとする特許の技術的範囲が明確か否かについて判断するものであって,それが,発明の課題を解決するための構成又は方法として十分か否かについて判断するものではない。
 ク 小括 以上によれば,特定事項Aは,脂質含有配合物を対象に投与するに当たり,当該脂質含有配合物を選択するために,当該対象の「要素」のうち,一つ又は複数を「指標」として使用する方法である旨特定するものである。特定事項Aに係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
(3) 「ここで前記配合物が,1又は複数の,相互に補完する一日用量のω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸を含む脂肪酸を含み」との記載(特定事項C)の明確性
(ア) 被告は,「相互に補完」するについて,ω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸が「相互に補完」する,又は,種々の脂肪酸が「相互に補完」すると解釈することもできると主張する。
しかし,本願明細書には,脂質含有配合物に含まれるω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸が相互に補完関係にあることや,種々の脂肪酸が相互に補完関係にあることを示す記載はない。また,本願発明の発明特定事項には,ω-6脂肪酸とω-3脂肪酸の量や比,ω-9脂肪酸の量を特定するものがあるが,これらの脂肪酸の補完関係まで特定するものではない。
(イ) 被告は,「相互に補完」するについて,食事から摂取する脂肪酸を補完すると解釈することもできる旨主張する。
 しかし,特定事項Cは,その特許請求の範囲の記載から,対象に投与される脂質含有配合物に含まれる脂肪酸の構成を特定したものであって,対象に投与される脂質含有配合物に含まれない食事に含まれる脂肪酸との関係性を特定したものではないことは明らかである。本願明細書【0041】は,後者の関係性をいうものであるが,これをもって,特定事項Cに係る特許請求の範囲の記載から明らかに導かれる解釈が否定されるものではない。
 (ウ) 被告は,「一日用量」について,「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸」の「一日用量」と解釈することもできる旨主張する。
 しかし,本願明細書には,「脂肪酸」の一日用量を含め,「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸」以外の脂肪酸の量にも着目する記載があり,特定事項Cが「ω-6脂肪酸およびω-3脂肪酸」のみの一日用量に限定するものということはできない。
 (エ) したがって,被告が主張する上記解釈は,いずれも採用できない。
オ 小括 以上によれば,特定事項Cは,対象に投与される脂質含有配合物が脂肪酸を含み,当該脂肪酸は,具体的には,ω-6脂肪酸及びω-3脂肪酸とともに,その余の脂肪酸を含むことができ,これらの脂肪酸全体の量が脂肪酸の一日用量に相当し,これらの脂肪酸は,当該脂質含有配合物の1又は複数の部分に含まれる旨特定するものである。特定事項Cに係る特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。
 (4) よって,取消事由2は理由があり,本願発明は明確性要件違反を理由に拒絶すべきものとはいえない。
3 取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について
 (1) 本件審決は,サポート要件について,「ω-6の増加が緩やかおよび/またはω-3の中止が緩やかであり,かつω-6の用量が,40グラム以下であり」との技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないから,本願発明の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合しないと判断した。
そして,本件審決は,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討判断していない。
 (2) しかしながら,特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
 そうすると,本願発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについて,何ら検討することなく,選択関係にある特定事項EないしHのうち特定事項G「ω-6の増加が緩やかおよび/またはω-3の中止が緩やかであり,かつω-6の用量が,40グラム以下であり」との技術的事項が,本願明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことの一事をもって,サポート要件に適合しないとした本件審決は,誤りである。
 (4) したがって,本件審決は,サポート要件を形式的に判断した部分について誤りがあるだけではなく,そもそも同要件を実質的に検討判断しておらず,その判断枠組み自体に問題がある。よって,取消事由3は,その趣旨をいうものとして理由がある。
 4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由2及び3は理由があるから,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
以上