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判例紹介:「ギャッチベッド用マットレス」審決取消請求事件

20.05.28 判例

【判決日】令和元年9月18日判決言渡
【事件番号】平成30年(行ケ)第10151号 審決取消請求事件
【キーワード】引用発明の認定,容易想到性の判断
【結論】原告の請求は理由がないから棄却する。
【事案の概要】
 原告は,発明の名称を「ギャッチベッド用マットレス」とする発明の特許出願について拒絶査定不服審判を請求したところ,特許庁が請求不成立の審決をしたため,審決の取消を求める訴訟を提起した。
【本件発明】
[請求項1](以下,本願発明1)
 クッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体と,
 このマットレス本体を被包するカバーと,
 を有し,
 前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていることを特徴とする
 ギャッチベッド用マットレス。
【審決の理由の要旨】
1.本願発明1は,特表2001-519186号公報に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
2.本願発明1と引用発明との一致点
 「クッション性を有し,ベッド使用者の体重を支えるマットレス本体と,
  このマットレス本体を被包するカバーと,
  を有するギャッチベッド用マットレス。」
3.本願発明1と引用発明との相違点
 「マットレス本体」に関し,本願発明1は,「前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されている」のに対し,
 引用発明は,「頭部端ブロック490,足部端ブロック492,シートブロック494が同一の堅さを有し」,「第1ブロック410は頭部端ブロック490およびシートブロック494の間に存し,第1ブロック410は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの腰部(lumber)と略々整列され,第1ブロック410の堅さは頭部端ブロック490およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの腰部に対して付加的な支持を提供し,第2ブロック412は,足部端ブロック492およびシートブロック494の間に存し,第2ブロック412は,ユーザの頭部が頂部キルティングパネル454上の頭部端ブロック490の近傍に位置せしめられたときにユーザの上腿と略々整列され,第2ブロック412の堅さは足部端ブロック492およびシートブロック494の堅さよりも大きくしてユーザの大腿に対して付加的な支持を提供し,第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ」るものである点。
4.相違点の容易想到性についての判断
(1)本願発明1と引用発明とで,マットレス本体の部材に,次の対応関係がある。

   本願発明1         引用発明

 背部に対応する位置の素材  : 頭部端ブロック490

 腰部に対応する位置の素材  : 第1ブロック410及びシートブロック494

 大腿部に対応する位置の素材  : 第2ブロック412(2)

引用発明では,上記の各ブロックを構成するフォームラバー(foamrubber)の堅さの関係には,次の3つの選択肢があると理解するのが合理的である。
 a 「第2ブロック412」>「第1ブロック410」>「頭部端ブロック490」=「シートブロック494」
 b 「第1ブロック410」>「第2ブロック412」>「頭部端ブロック490」=「シートブロック494」
 c 「第2ブロック412」=「第1ブロック410」>「頭部端ブロック490」=「シートブロック494」。
(3)上記の三つの選択肢のうちaを選択すれば,本願発明1の構成になる。
 三つの選択肢のうちその一つを選択することは,当業者が適宜なし得ることである。
【原告の主な主張】
1.引用発明の認定の誤り
 審決は,引用発明の課題(目的)を無視し,本願発明1との相違点を予め減らすべく意図的に引用発明を認定しており,事後分析的な認定であって,誤っている。
2.容易想到性の判断の誤り
(1)三つの選択肢から一つを選択することにつき
 引用文献1の・・・第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ得る・・・との記載に照らせば,引用発明においては,堅さの大小関係はユーザの嗜好に応じて決定されるものであって,いわば「何でもよい」のであり,大小関係に関する技術思想は開示されていない。技術思想が何ら開示されていないのであれば,そもそも選択肢にはならないから,引用発明から何かを合理的に選択することは不可能である。審決において,理由を示すことなく,選択肢aを選択することが当業者にとって適宜なし得ると判断したことは,事後分析的な判断に基づく後付けの論理といえる。
(2)作用効果につき
 本願発明1の作用効果(身体がベッド長手方向にずれないことや骨盤が立った座位姿勢をとりやすくすること)は,引用文献1に記載も示唆もなく,引用発明から当業者が予測できる範囲にあるものでない。
(3)阻害要因等につき
 引用発明においては,大腿部だけでなく腰部にも「付加的な支持を提供」しようとするため,第1ブロック410の堅さを堅くしており,ベッド使用者の腰部に対応する位置にあたる領域のマットレス本体の硬さを本願発明1のように柔らかいものとすることは,引用発明が避けなければならない事態であり,引用発明には第1ブロック410を堅くする技術的思想があるといえるから,本願発明1を想到するに当たっての阻害事由が存在する。
【当裁判所の判断】
1.引用発明の認定の誤りについて
(1)原告が主張するように,引用文献1の【0128】ないし【0142】で開示される実施例(以下「引用実施例」という。)においては,マットレス装置を構成する複数の部材の堅さの選択及び組合せとして多種多様な選択肢があり得るところ,審決は,そのうちの一つを取り出した構成を引用発明として認定している。
(2)引用実施例に係るマットレス装置452が上記のように多種多様な部材の選択及び組合せや4通りの使用方法を開示しているのは,引用実施例が「小売用テスト装置として」利用され【0142】,「小売業者は店舗内のテスト用マットレスの台数を減ずることで床面積を節約し得ると共に,ユーザは小売業者から購入しようとするマットレスの感触を適合調整し得る」【0128】ように,店舗内のテスト用マットレスに特化した課題(目的)又は作用効果に関する事項を強調するためであると解される。しかし,引用文献1には,「マットレス装置452は家庭または他の療養施設での個人使用の為にユーザにより購入されることもある」【0142】と記載されており,このように個人が使用する場合には,適切な感触を得られる硬さの部材の組合せが既に決定されているのであるから,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは想定されない。
 したがって,小売用テスト装置(店舗内のテスト用マットレス)に用途を限定しない引用実施例のマットレス装置452において,多種多様な部材の選択及び組合せ並びに4通りの使用方法があることは,一体不可分の必須の技術思想に当たらず,その中から一つの組合せ及び使用方法を抽出した例を引用発明とすることに支障はない。引用発明は,引用例に記載されたひとまとまりの構成ないし技術的思想として把握可能であれば足りるところ,審決で認定された引用発明は,この要件を充たしているといえる。
(3)引用文献1に具体的には全く例示されていない例を抽出したのであれば,・・・本願発明1との相違点を予め減らすべく事後分析的な認定をしたといえることもあろう。しかしながら,審決が認定した引用発明は,部材の選択及び組合せについては,引用文献1に「所望であれば」「好適には」として具体的に例示された構成を採用している。また,使用方法については,引用文献1の【図24】に具体的に示された例をそのまま用いており,頭部と足部とを入れ替えることも,表と裏とを入れ替えることもしていない。このように,引用発明は,引用文献1に接した当業者が特段の「深読み」を要せずして把握し得る構成を備えたものであるから,審決に,事後分析的な認定をしたという誤りもない。
2.容易想到性の判断の誤り
(1)三つの選択肢から一つを選択することにつき
 大小関係の場合分けが何十通りもあるというのであればともかく,審決が正しく認定するとおり,堅さの大小関係の場合分けは3通りしかなく,しかも引用文献1の【0137】には「第2ブロック412の堅さは第1ブロック410の堅さよりも大きく,小さく,又は,等しくされ得る」としてその3通りが具体的に明記されているのであるから,そのうちの一つである「第2ブロック412」>「第1ブロック410」という堅さの大小関係(審決にいう「選択肢a」)を選択することに,そもそも特段の技術思想を要しない。そうすると,引用発明から出発して,本願発明1と同様の又は別個の思考過程を通じて選択肢aを選択することは,当業者が適宜なし得たことであるといえる。
(2)作用効果につき
 本願発明1の「前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されていること」という事項は,各位置の素材の定量的な硬さを特定するのではなく,相対的な硬さである硬さの大小関係を特定するものである。そして本願発明1の「ギャッチベッド用マットレス」は,その硬さの大小関係の特定を満たす「マットレス本体」を有することで,明細書の段落【0012】,【0018】に示されるように,ベッド使用者の腰部を相対的に沈みやすくし,大腿部を相対的に沈みにくくし,その結果,背上げ時にベッド使用者の身体がベッド長手方向(足下方向)にずれないようにすることやベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなるという効果を奏するものと理解される。
 引用発明において選択肢aを採用した場合,
①「第2ブロック412」(本願発明1の「大腿部に対応する位置」に相当する位置に配置された素材)>「第1ブロック410」及び「シートブロック494」(本願発明1の「腰部」「に対応する位置」に相当する位置に配置された素材)
②「第2ブロック412」(本願発明1の「大腿部に対応する位置」に相当する位置に配置された素材)>「頭部端ブロック490」(本願発明1の「背部」「に対応する位置」に相当する位置に配置された素材)
 という堅さの大小関係が成立する・・・してみると,引用文献1には本願発明1の課題や効果についての記載や示唆がないものの,引用発明において選択肢aを採用することで,コア458の各ブロックにおいて本願発明1における硬さの大小関係の特定を満たすことになり,・・・また,選択肢aを採用して構成されたマットレス装置452をギャッチベッドに適用すると,ギャッチベッドを背上げ状態においたときに,ベッド使用者の腰部は相対的に沈みやすくなり,大腿部は相対的に沈みにくくなることも物理的に明らかである。このように,引用発明において選択肢aを採用した場合の上記硬さの関係及び背上げ状態におけるベッド使用者の身体の動きをふまえると,背上げ時にベッド使用者の身体がマットレスに対してベッド長手方向(足元方向)にずれにくくなるともに,ベッド使用者がマットレス上に座した場合に骨盤が立った座位姿勢をとりやすくなるという効果は,当業者の予測し得る範囲内といえる。
(3)阻害要因等につき
 本願発明1の「前記マットレス本体は,前記ベッド使用者の大腿部に対応する位置に,腰部及び背部に対応する位置の素材よりも硬い素材が配置されている」という発明特定事項は,各位置の素材の定量的(絶対的)な硬さを特定するのでなく,相対的な硬さの大小関係を特定しているから,ベッド使用者の腰部及び背部に対応する位置に当たる領域のマットレス本体の硬さを定量的に柔らかいものにしたものに限られない。すなわち,腰部及び背部に対応する位置の素材が「付加的な支持を提供」するに足る定量的な堅さを有していても,大腿部に対応する位置の素材に比べてわずかでも柔らかければ本願発明1の特許請求の範囲に含まれてくるのであり,引用発明においてそのような堅さ設定を選択して本願発明の構成に至ることに阻害要因があるとはいえない。
4.以上によれば,取消事由に係る原告の主張は,いずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
以上