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判例紹介:「ピストン」審決取消請求事件

20.05.28 判例

【判決日】令和元年11月13日
【事件番号】平成30年(行ケ)第10149号 審決(拒絶)取消請求事件
【キーワード】主引用発明、副引用発明、手続違背
【判決要旨】原告の請求を棄却する
1.手続違背について
…本件拒絶理由通知書には,次の記載がある。
「[理由1]について
 請求項 1,4-6
 引用文献 1,2
 備考
 引用文献1には,外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,下方リング溝内に配置される第2のピストンリングとを備え,本体は,環状の封止冷却空洞(6)を有し,そこに冷却媒体が配置され,封止冷却空洞は,第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に径方向に並んで構成される,ピストンが記載されている。…(第1図)。
 引用文献2にも同様の記載がされている(図3)。
 してみれば,本願の請求項1,4-6に係る発明と引用文献1,2に記載された発明との間に差異はない。」
「[理由2]について
 請求項 1,4-6
 引用文献 1,2
 備考
 本願の請求項1,4-6に係る発明は,引用文献1,2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである([理由1]参照)。」
「<引用文献等一覧>
 1.特開昭52-092034号公報(判決注:甲12)
 2.特開平4-265451号公報(判決注:甲1)」
…本件意見書には,次の記載がある。
「(3)特許法第29条に基づく拒絶理由について
 審査官殿は,本願の補正前の請求項1に記載された発明は引用文献1および2に記載された発明と同一であると指摘されています。…引用文献2に記載された発明は,空洞部3を有するものの,その範囲は「ピストンの上部外周部及び上部外周から頂面の内,少なくとも上部外周部の内側」と規定されているのみで,これ以上に,空洞部の範囲を具体的に特定する構成は開示されていません。
 補正後の本願発明は,冷却空洞の範囲について,…。かかる本願発明の冷却空洞は,引用文献1の冷却空洞(6)とは,ピストンの天井に達する位置にまでは至らず,最上リング溝と径方向に並ぶ位置までに限定される点で異なります。また,空洞部の具体的な存在範囲が特定されていない引用文献2に開示された空洞部3とも異なるものです。
 このように,補正後の本願発明のような,リング溝を用いてリングベルト領域を規定し,当該領域をもとに,ピストンの冷却を促進する好適な範囲が規定された冷却空洞は,引用文献1にも2にも開示されておりません。…」
…本件拒絶査定書には,次の記載がある。
「この出願については,平成29年1月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をすべきものです。」
「理由2(特許法第29条第2項)について
 請求項 1
 引用文献 1,2
 …しかしながら,ピストン上面が過熱されやすく,冷却すべきことは,引用文献2の段落[0004]等に記載されているよう周知の課題であるし,引用文献2には,図1等にピストン上面のリング溝付近のみに冷却空洞を設けることが記載されている。よって,ピストン頂面が過熱され易いという課題を基に,冷却空洞の位置を設定することは当業者であれば容易になし得ることである。
 したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1,2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。」
…上記審判請求書には,次の記載がある。
「(3)引用発明の説明
 引用文献1には,機会穿孔6を有するエンジン用ピストンが開示されているが,その最上部分に特段の特徴はない。
 引用文献2には,空洞部2を有する二サイクルエンジンのピストンが開示されているが,その最上部分に特段の特徴はない。…
 (4)本願発明と引用発明との対比
 補正後の請求項1に係る本願発明は,燃焼面の最上部分から垂下する「燃焼ボウル」を備える。引用文献1~4の発明は,その最上部分に特段の特徴がなく,この燃焼ボウルに相当する構成は開示されていないため,引用文献をいかに組み合わせても,補正後の請求項1に係る発明に想到することは不可能である。
 補正後の本願発明において,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間に,ピストン本体の材料の薄い領域を形成するのは,本願発明がリングベルト領域のみならず,上部燃焼面を冷却することも意図しており(明細書段落[0004],[0014]),その効果を得る目的である。かかる構成および技術思想もいずれの引用文献にも開示されておらず,引用文献1~4から補正後の請求項1に記載された発明に想到するのは不可能である。
【むすび】
 したがって,本願発明は引用文献1ないし4に記載された発明から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。…」
(2)甲1発明に基づく進歩性の誤りについて
第2 事案の概要
2 特許請求の範囲の記載
(2) 本件補正(審判請求時の補正)による補正後の特許請求の範囲
【請求項1】
内燃機関のためのピストンであって,/筒状の外面を有する本体を備え,前記外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが前記最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,/前記下方リング溝内に配置される第2のピストンリングと,/上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウルとを備え,/前記本体は,環状の封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が配置され,前記封止冷却空洞は,前記第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に径方向に並んで構成され,前記封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成するよう構成され,前記封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有し,前記最上面は,前記最上リング溝と実質的に径方向に並び,前記最下面は,前記下方リング溝の下方を延在する,ピストン。
(注:一重下線は拒絶理由通知への応答時の補正、二重下線は審判請求時の補正)
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,…①本件補正発明は,下記アの甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び下記イの甲2に記載された技術事項(以下「甲2技術」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,…特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,…補正を却下すべきものである,また,②本願発明は,本件補正発明と同様に,同法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである,というものである。
 ア 特開平4-265451号公報(甲1)
 イ 実願昭57-177789号(甲2)
(2) 本件審決が認定した甲1発明,本件補正発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
 ア 甲1発明
 二サイクルエンジンのピストン1であって,/筒状の上部外周2を有するピストン本体を備え,前記上部外周2内に延在する環状の頂面7に近い側のリング溝と頂面7に遠い側のリング溝とを有し,トップランドが前記頂面7に近い側のリング溝から頂面7へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと,/前記頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと,/を備え,/前記本体は,栓6で塞ぐ空洞部3を有し,そこにナトリウムが注入され,前記栓6で塞ぐ空洞部3は,前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと径方向に並んで構成され,前記栓6で塞ぐ空洞部3は,最上面と最下面とを有する,二サイクルエンジンのピストン1。
 ウ 本件補正発明と甲1発明との相違点
(相違点1)
 本件補正発明は,「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウル」を備え,「封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成するよう構成され」るのに対し,甲1発明は,かかる構成を備えていない点。
(相違点2)
 「封止冷却空洞」に関し,本件補正発明は,「環状の」封止冷却空洞であるのに対し,甲1発明は,環状であるか否かが不明である点。
(相違点3)
 「封止冷却空洞」に関し,本件補正発明は,第1のピストンリングと第二のピストンリングと「の間」に構成され,「最上面は,前記最上リング溝と実質的に径方向に並び,前記最下面は,前記下方リング溝の下方を延在する」のに対し,甲1発明は,かかる構成を備えるかが不明である点。
(3) 本件審決が認定した甲2技術は,次のとおりである。
 内燃機関のためのピストン1であって,/ピストン頭部を備え,/上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え,/前記ピストン頭部は,空洞7を有し,そこに良伝導性金属Mが封入され,前記空洞7は前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いよう構成されるピストン1。
第4 当裁判所の判断
(1) 甲1発明について
 ウ 本件補正発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定について
 (ア) 本件補正発明と甲1発明との間には,本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があること(前記第2の3(2)イ,ウ)が認められる。
(2) 相違点1の判断について
 ア 甲2技術について
 (イ) 上記のとおり,甲2文献には,内燃機関のためのピストンであって,ピストン頭部内に該頭部を囲い中空部を形成し,該中空部内に良伝熱性金属を封入する構成とし,該金属の熱対流によってピストン頂面の熱を,ピストンピン,ピストンスカート部へ流動して低下させることが記載されている。また,第3図から,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え」ており,ピストン頭部の空洞内に良伝熱性金属Mが封入されていることが看て取れる。
 もっとも,甲2文献には,「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」という事項の明示的な記載はない。
 しかしながら,本願明細書によれば,本件補正発明は,燃焼室内で温度及び圧縮負荷を上昇させることにより,ピストンに対する摩耗及び物理的負荷が大きくなり,その潜在的な耐用年数が短くなってしまうとの課題を解決するため,第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に実質的に径方向に並んで構成される環状の封止冷却空洞を設けて冷却媒体を収容し,上部燃焼面及びリングベルト領域に対する冷却効果を最適化するものであり(【0002】,【0003】,【0004】,【0014】),リングベルト領域のみならず上部燃焼面を冷却することを意図するものと認められる。そして,本願明細書には,「燃焼ボウル42に起因して,ピストン本体の材料の比較的薄い領域が燃焼ボウル42と冷却空洞28と下クラウン面18との間に形成される。」(【0010】)との記載があるところ,当業者であれば,燃焼ボウルを設けて頂部と封止冷却空洞を近接して設置し,これに起因して,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間の領域を薄く形成することにより,上部燃焼面の熱を熱伝導によって冷却媒体に逃がしやすくしていることを技術常識として理解することができるから,本件補正発明の「ピストン本体の材料の薄い領域を形成する」とは,上部燃焼面の冷却性を向上させるために,凹んだ燃焼ボウルを備えることに起因して,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間に,ピストン本体の材料の薄い領域を形成することであると理解される。
 そうすると,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え」ている甲2技術では,「凹んだ部分」に起因して,ピストン1の頭部の「凹んだ部分」と空洞7との間に領域が形成されるところ,甲2技術がピストン頂面の熱をピストン下方へ流動して低下させるものであること及び上記技術常識を踏まえるなら,かかる領域は薄く形成されるものであることが明らかであるから,「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いよう構成される」ことが,実質的に記載されているといえる。
 以上によれば,甲2文献には,実質的に,本件審決が認定したとおりの甲2技術(前記第2の3(3))が記載されていることが認められる。
 イ 相違点1の容易想到性について
 (イ) 原告は,二サイクルエンジンにおいて,ピストンの頂面付近の肉厚を厚くしている甲1発明に,甲2技術を適用してピストン頂部に凹部を設けることには,阻害要因があると主張する。
 しかしながら,…二サイクルエンジンにおいても,ピストン頂面に凹んだ形状の燃焼室を設けることは周知であったと認められる。そして,甲1発明は,二サイクルエンジンにおいて,従来技術のピストンの有する課題を解決するため,空洞部を設けることによって,熱を下方に拡散するものであるところ,かかる課題を解決するために,周知技術である凹んだ形状の燃焼室の構成を採用することが妨げられる理由があることはうかがわれず,ピストン頂面付近の肉厚を厚くすることが必須の構成とはいえないから,甲2技術を適用することに阻害要因はない。
 (ウ) そして,甲1発明に甲2技術を適用すれば,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分」が設けられ,この「凹んだ部分」を設けることに起因して,ピストン1の頭部の「凹んだ部分」と空洞部との間にピストン本体の材料の薄い領域が形成されることになるから,相違点1に係る構成は,容易に想到することができる。
以上