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判例紹介:「ガスセンサ素子」審決取消請求事件

20.05.28 判例

【判決日】平成30年9月20日
【事件番号】平成29年(行ケ)第10194,10190号 知財高裁 審決取消請求事件
(http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/002/088002_hanrei.pdf)
【キーワード】進歩性
【ひとこと】
・審決では甲3に基づいて①~③について当業者が適宜なしうると判断されて請求項1の進歩性が否定されたのに対し、本判決ではこれらについて甲3には記載がなく技術常識でも無いとして、進歩性が肯定されました。
・進歩性の決め手となった特徴1I)については、出願当初の明細書には図面に現れているだけで文章での説明は記載はないようであり、効果の説明も明細書に記載はありませんが、訂正が認められ、今回の判決で進歩性も認められています。
・甲3に記載の「面一(つらいち)」の定義について本判決では触れておらず、広辞苑にはこの単語は収録されていませんでしたが、Web上では例えば「面一(つらいち)とは、突き合わされた二つの部材に段差が無い事」という定義がありました。本判決でも、「面一となるように、・・・すなわちできるだけ隙間を生じないように」と記載されているため、上記Web上の定義と同様に、両者が接触され且つ高さが同じという意味に解釈したものと思われます。
【判決要旨】
1.結論
 原告が主張する取消事由1-1ないし1-4はいずれも理由がないが,被告が主張する取消事由2は理由があるから,本件審決にはこれを一部取り消すべき違法があるものと判断する。
2.事案の概要
平成24年10月12日 被告の特許出願の設定登録
            発明の名称「ガスセンサ素子及びその製造方法」
平成26年02月26日 原告が無効審判請求
平成27年02月03日 被告が訂正請求
平成27年05月27日 訂正を認めて、審判の請求は成り立たないとの審決(前審決)
平成27年05月01日 原告が知的高裁に前審決の取消しの訴えを提起
平成28年06月09日 前審決を取り消す旨の判決(前判決)確定
(無効審判再開)
平成29年05月24日 被告が訂正請求(本件訂正)
平成29年09月26日 訂正を認め、請求項1無効、請求項2,3有効との審決(本件審決)
平成29年11月01日 原告が知財高裁に訴えを提起(第1事件)
平成29年10月28日 被告が知財高裁に訴えを提起(第2事件)
3.発明の内容
【請求項1】(※1A)等は本件審決で付されたもの、下線部は本件訂正の訂正箇所)
1A) 固体電解質シートの両表面の互いに対向する位置に一対の電極を設けてなるガスセンサ素子において,
1B) 上記固体電解質シートは,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなるアルミナシートに設けた充填用貫通穴内に,酸素イオン導電性を有するジルコニア材料からなるジルコニア充填部を配設してなり,
1C) 上記一対の電極は,上記ジルコニア充填部の両表面に設けてあり,
1D) 上記アルミナシートの両表面には,該アルミナシートよりも薄く,電気絶縁性を有するアルミナ材料からなる一対の表面アルミナ層が積層してあり,
1E) 該一対の表面アルミナ層には,上記ジルコニア充填部の配設箇所に対応して開口用貫通穴が設けてあり,
1F) 該開口用貫通穴は,上記ジルコニア充填部よりも小さく,上記ジルコニア充填部における上記電極よりも大きな形状に形成し,
1G) 上記開口用貫通穴の周縁部は,上記ジルコニア充填部の両表面における外縁部に重なって,
1H) 上記表面アルミナ層によって,上記ジルコニア充填部が上記充填用貫通穴から抜け出るのを防止し,
1I) 上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出させることを特徴とする
1K) ガスセンサ素子。
【請求項2】(省略:請求項1の従属項)
【請求項3】(省略:製造方法)
4.争点
<原告主張>
取消事由1-1:請求項1,2の明確性・サポート要件
取消事由1-2:請求項2の明確性・サポート要件
取消事由1-3:請求項2の進歩性
取消事由1-4:請求項3の進歩性
<被告主張>
取消事由2:請求項1の進歩性
5.本件審決が認定した本件発明と引用発明2との相違点
<相違点1>
 本件発明1は,1D)~1I)を備えるのに対して、引用発明2の1はそのような表面アルミナ層を備えていない点。
6.知財高裁の判断
<取消事由2について>
(4) 本件審決は,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジルコニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部の表面を露出させること」に関し,引用発明2の1に甲3技術1を適用して接着剤表面アルミナ層とするに当たり,
① 甲3の記載から,接着剤表面アルミナ層が,第1電極や第2電極の表面の周縁部と重複してしまうと,第1電極又は第2電極の他の部分,及び,接着剤表面アルミナ層の他の部分と比較して厚くなってしまうことから,アルミナからなる接着剤の層を導体層の平坦部と略面一にすることによって,各未焼成シート又は各未焼成スペーサに亀裂が発生することを防止するという目的が果たせなくなることは当業者にとって明らかであるから,アルミナからなる接着剤の層と導体層が略面一であることが必須であるのに対して,アルミナからなる接着剤の層と導体層の側面とが隙間を空けることなく接することは必須ではないことは,当業者にとって明らかである,
② 第1電極又は第2電極の表面の周縁部に,接着剤表面アルミナ層を隙間なく接触させるように設計又は製造を行うと,避けることのできない製造誤差により,第1電極又は第2電極と接着剤表面アルミナ層が重複することがあり得るので,そのような事態を回避するために,第1電極及び第2電極と接着剤アルミナ層との間に隙間を設けることによって余裕を持たせ,第1電極及び第2電極と接着剤表面アルミナ層との重複を回避することは,当業者が適宜なし得ることである,
③ そして,その隙間をどの程度にするかは,製造誤差の程度等を勘案して当業者が適宜設定し得るものであって,固体電解質体の表面が露出する程度の隙間とすることも適宜設定し得る範囲内のものである,と判断した。
(5) そこで検討するに,本件審決が認定したとおり,甲3には,甲3技術1が記載されており,本件特許に係る出願当時,積層タイプのガスセンサ素子において,これを構成する各未焼成シートをアルミナからなる接着剤を介して積層することは,当業者にとって周知の技術であったと認められる。しかし,甲3には,①接着剤が導体層の周縁部に重複すると,亀裂の発生を防止することができないから,導体層と接着剤とが隙間なく接することは必須ではないことや,②避けることのできない製造誤差により,接着剤が導体層の周縁部に重複すること,また,③製造誤差の程度を勘案して,固体電解質体の表面が露出する程度の隙間を設定することは,記載も示唆もされていないし,上記①~③の事項が,当業者にとって当然の技術常識であると認めるに足りる証拠も見当たらない。
 仮に,「製造誤差」を考慮して接着剤の量を調整することが,当業者の技術常識であるとしても,甲3の段落【0049】及び【0050】の記載,及び当該段落が引用する図6~9に接した当業者は,接着剤の量は,導体層に設けられた平坦部と略面一となるように,すなわち,当該平坦部との間にできるだけ隙間を生じないように調整するものと理解すると認めるのが相当である。
 そうすると,引用発明2の1に甲3技術1を適用するに当たり,当業者が「電極と接着剤との間に隙間を設ける」構成を採用する動機付けがあると認めることはできず,構成要件1I)に係る「上記ジルコニア充填部に設けた上記電極と上記開口用貫通穴との隙間から,上記ジルコニア充填部の表面を露出させる」構成を,当業者が容易に想到できたということはできない。
(6) 原告の主張について
 この点に関連して,原告は,甲3に導体層等の周りを接着剤で埋めることについての記載はないから,導体層と接着剤とを隙間なく密着させることまでが必要とされているのではないと主張する。
 甲3に,導体層等の周りを接着剤で埋めるとの文言が明記されていないのは原告が主張するとおりであるが,甲3に,上記(5)の①~③の事項が記載も示唆もされていないことは,上記(5)において説示したとおりである。
 そして,甲3の段落【0049】には,接着剤を導体層における平坦部と略面一になるように塗布したと記載されている上に,当該段落が引用する図6及び7,並びに段落【0050】が引用する図8及び9には,当該接着剤が導体層に隙間なく接するように塗られている図が描かれていることからすると,これらの記載に接した当業者は,接着剤を当該平坦部との間にできるだけ隙間を生じないように塗布するものと理解するのが自然というべきである。
 したがって,この点についての原告の主張を採用することはできない。
(7) 小括
 以上によれば,本件発明1における相違点1のうち,構成要件1I) の「ジルコニア充填部に設けた電極と開口用貫通穴との隙間から,ジルコニア充填部の表面を露出させる」との構成は,引用発明2の1及び甲3技術1に基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるとはいえない。
 したがって,この点についての本件審決の判断には誤りがあり,その誤りが結論に影響を及ぼすものであるから,被告が主張する取消事由2は理由がある。
以上